イヌビエ Echinochloa crus-galli var. caudata (イネ科 イヌビエ属)



 イヌビエは水田や放棄水田、路傍、荒れ地などに生育する一年草。水田雑草の1つとして嫌われる存在である。この仲間は田植え前後に芽生え、イネの出穂に先だって8月頃に開花結実し、イネが刈り取られる以前に種子を散布してしまう。草形はイネとよく似ているので穂が出る前にはわかりにくく、除草しにくい。イネに擬態し、稲作のサイクルに見事に適応した水田雑草である。
 イヌビエの仲間は水田だけではなく、路傍や荒れ地、河原にも良く生育する。それぞれの場所に応じて多様な系統があるようで、形態も変異が多い。分類の基準も図鑑によって異なっており、混乱がある。多様な形質(系統)を持った種として理解すべきなのかもしれない。
 ここでは、ヒメイヌビエ・ケイヌビエをまとめ、広義のイヌビエとしておく。
イヌビエイヌビエ
芒が長く、紅紫色となるケイヌビエのタイプ

 イヌビエとタイヌビエは、小穂の大きさで区別できる。タイヌビエは小穂が大きいので、コロコロとした感じの花序になる。一方、イヌビエの詳細区分は図鑑によって意見が異なるので難しい。当面、詳細な区分をあきらめて全て「イヌビエ」としておくのも1つの対応の仕方であると思う。日本イネ科植物図譜(長田、1989:平凡社)を参考にまとめると、次のようになる。


小穂の長さ生育地と花期
イヌビエ
E. crus-galli var. caudata
3〜4mmなし〜長い農耕地などの湿地に普通、花期は8〜10月
ヒメイヌビエ
E. crus-galli var. praticola
なし乾燥地でもなく、湿地でもない場所に生育し、花期は7〜9月
ケイヌビエ
E crus-galli var. echinata
2.5〜4cm
若い時は淡い緑色
後に暗紫褐色となる
河原などに生育し、大型で1mを越えることも多い。花期は9〜10月
タイヌビエ
E. phyllopogon
5mmなし水田あるいはその周辺。花期は8〜10月

注:日本の野生植物(佐竹・大井・北村ほか、平凡社 1982)では、ケイヌビエをイヌビエに含め、イヌビエとヒメイヌビエを認めているが、原色日本植物図鑑(北村・村田・小山、1964:保育社)では、ヒメイヌビエはイヌビエに含められており、ケイヌビエが区別されている(ただし、ケイヌビエの学名はvar.caudata)。


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