T.コケ植物入門:野外で,コケを楽しむために
Lesson 1. コケ植物を他の植物から区別しよう
*解説: 小さな,正体がよくわからない植物は,一般に“こけ”と呼ばれています.いろいろな植物の仲間を含んで 生物の主な仲間は,生きるために必要な仕組み(エネルギー(光)の獲得,水や養分の獲得,繁殖方法)が 緑色植物の主な仲間(コケ,シダ,裸子植物,被子植物)は,水や養分の獲得方法,また繁殖方法が異なり
*実際:野外にでて,探してみよう 観察のポイント: 1.花を咲かせる植物(植物,植物)と胞子でふえる植物を区別しよう (ルーペを使い,「花」には,花弁,雌しべ,雄しべがあることを観察する) 2.胞子で増える仲間にはどんな仲間があるかを知ろう;区別しよう 白っぽい:(キノコ),(ウメノキゴケ,ハナゴケ) 黒っぽい:らんそう類 緑色:緑藻類,コケ類,シダ類 3.コケを探そう:コケの特徴 (エネルギーの獲得)緑色(光合成をする,葉緑体を持つ) (水や養分の獲得)からだ全体で;根(仮根)は発達しない (繁殖方法)胞子で増える(「花」を咲かせない) 雌花(卵),雄花(精子)があり,受精に水を必要とする
*発展(さらに,こんなことをやってもいいかも) 1.植物体の基本的作り(糸状体,葉状体,茎葉体,根・茎・葉)を知る 2.顕微鏡を用いて,何故,植物体の色が違うかを観察する
Lesson 2. コケの主な仲間を区別しよう
*解説 コケ植物は3つの仲間からなります.その中の蘚類と苔類は,見かけ上,それぞれ2つの仲間があります. 1.蘚類:4亜綱(ミズゴケ,クロゴケ,ナンジャモンジャゴケ,マゴケ) ミズゴケ,クロゴケ,ナンジャモンジャゴケの仲間は,種類も少なく,また,特殊なところに生育してい 蘚類のほとんどの種類はマゴケ類です.茎葉体になります.見かけ上,茎が立つコケ(タチゴケ)と茎が 2.苔類:2亜綱(ウロコゴケ,ゼニゴケ) 見かけ上,茎葉体(ウロコゴケ類)と葉状体(ゼニゴケ類)になるものがあります 3.ツノゴケ類 葉状体になり,ツノ(胞子体)がたちあがります.少数の種類があります.
*実際 野外でコケ植物を探して,どの仲間になるか,区別してみましょう 一部を手に取り,どのような形になっているのかを,ルーペで見てみましょう
* 発展 1.観察したものを採集し,体の作りがどのようになっているか,茎や葉,仮根, 葉状体の表や裏を,実体顕微鏡で観察してみましょう (予想しなかったようなさまざまな微細形態が観察できます) 2.光学顕微鏡で,蘚類と苔類の葉身細胞を観察しましょう (1層の細胞からできています;細胞の形や内容物が異なっています)
Lesson 3. コケの“花”(胞子体:胞子ができるところ)を探してみよう
*解説 コケは胞子で増えます.胞子をつくる植物体は“胞子体”とよばれ,胞子が作られ る袋は“胞子”とよばれます.コケの群落をよく見てみると,しばしば,胞子体を見つ けることができます) ポイント: 1.コケにも雌雄があり,受精することにより“胞子体”ができます 2.コケの生活史の概略:胞子−原糸体−配偶体−受精−胞子体−胞子嚢 3.受精の時期や胞子をまく季節は,種によって決まっています 4.コケ植物は胞子体の作り方の違いにより,次の3群に分けられています 蘚類: コケ群落の上に,つきでているものが多い.岩の上や木の幹に生育する種類では,葉の中にかくれていることが多い. 柄が伸びた後,その先端部がふくらんで,その中に胞子が作られる 胞子嚢の先端にはふたがある.ふたがはずれると,16本のさく歯が見えて,胞子が こぼれでるのをふせいでいる.乾湿に応じてさく歯が開閉して,じょじょに胞子をまく. 苔類: 初冬や初春に,茎の先などに黒くて丸いかたまり(胞子嚢)が見える.春先に胞子 嚢をもちあげて,乾くと,胞子嚢が縦にさけて胞子を一度にまく.胞子とともに,“弾糸 ”がある. ツノゴケ類: 胞子体は,葉状体から,ツノ状に突き出る.ツノ状の突起の先端が二つに割れて, 胞子がこぼれでる.
*実際 胞子体らしきものを見つけたら,一部を手にとって,ルーペで見てみましょう 種類が違うと,蘚類では,胞子体の形(柄の長さ,“さく”の形)が違います 苔類では,柄が伸びる前に“さく”を包んでいる葉()の形が違います
* 発展 1.胞子をまいている胞子体を見つけたら,一部を採集し,“さく”の部分を,実体顕微 鏡で観察してみま 2.蘚類の“さく”の場合は,口の部分を水で少しぬらし,その水が乾ききるまでの様子 を実体顕微鏡で観察 (乾くにしたがい,さく歯が開閉運動をします) 3.実体顕微鏡で観察しながら,ピンセットを使い,スライドガラス上で,“さく”をこわし てみましょう.
Lesson 4. コケのいろいろな種類を探して,区別してみよう
* 解説 コケにも多くの種類があります.日本に約1700種,世界に約2万種が知られています. 近くの公園や学校校舎のまわりでも,数種から十数種を,簡単に探すことができます.自然が豊かな渓谷
* 実際 次の点に注意して,庭や公園,校舎のまわりで,同じ種類のコケ(名前はわからなくてもよい)がどこに 同じ種類の別群落を探して,どういう点が同じかを考えよう 違う種類と思うばあいは,どういう点が違うかを考えてみましょう.
1.何の上に生えているかを見てみよう 種類によって何の上に生えるかはほぼ決まっています. 生育基物が違うとコケの種類も違います “生育基物”は,コケが付着しているもののことです. 大雑把に,土,岩,樹木の3つにわけることができます. 葉の上に生えるコケ()もあります. 2.どんな群落を作って生えているかを見てみよう 群落の作り方は種類によってきまっています 立つコケ:密なかたまり,ゆるいかたまり,まばらにちらばる はうコケ:うすいマット状,厚くてふわふわしたマット状 垂れ下がるコケ 3.コケ群落の色の違いを感じよう 種類によって,いろいろな“緑”(黄緑,青緑,黒っぽい,白っぽい,赤っぽいなどな ど)があります さらに,光ったり,くすんだりするというちがいもあります 同じ種類でも,ぬれたときとかわいているときでは色が違ってみえます. 新芽と成熟したものでもことなります 生育している場所の,日当りや湿り具合のちがいでも多少かわります 4.葉のつき方をみてみよう 種類によって葉のつき方(葉が茎からどのようにでているか)がきまっています. 重なりあって密につくか,離れてまばらにつくかというちがいもあります 蘚類: 葉は茎に2列について,1枚の羽のようになる:ホウオウゴケ 葉は茎にらせん状につき,1本のひも状になる:ギンゴケ,ネズミノオゴケ 茎葉性苔類: 3列につくことが多い(2枚の左右にひろがると1枚の) 背葉は茎の左右に広がることが多い 腹葉は茎の腹側(下側)につく 5.乾いているコケに霧吹きで水をかけてみよう ぬれたときの葉のひらき方,乾いたときの葉のとじ方は種類によってきまっています(ひらくかひらかない 6.ルーペでコケの葉を見てみよう 葉の形が種類によってちがいます(細長い,楕円,先が尖るか)葉の中央,下から上に,中肋と呼ばれる葉
* 発展 1.同じかちがうかの区別がつかない場合は,一部を採取して,実体顕微鏡や生物顕微鏡で体の作りを観察し 2.どこに,どんなコケが生育しているかを地図にしよう.
Lesson 5. 身近な場所に生育する,分かりやすい種類を探してみよう
* 解説 身近なところに生育している種類の中にも,分かりやすい種類があります.コケの写真図鑑などを見て
* 実際 1.コケの写真図鑑などで,身近なところに生育する種類をチェックしておこう.西日本で,身近なところに やや日陰の土上: やや日当りのいい土上: ブロック塀やコンクリート上: 樹幹上:
2.野外では,なるべく大きな群落を作っていて,しかも,胞子体を付けているものを探してみよう. 3.一度に1−2種にとどめておき,同じ種類のほかの群落を探してみよう.
* 発展 1.観察会や講座を開催する場合は,あらかじめ,コケがたくさん生育していて,なるべく特徴のはっきりした 2.正確な同定を行うためには,生物顕微鏡で観察し,葉の作りや細胞の形を観察する必要があります. @野外で観察したコケを実体顕微鏡や生物顕微鏡で観察してみましょう. @一掴みの固まりを実体顕微鏡で観察し,茎の伸び方や葉の形を見てみましょう @その固まりをピンセットを使ってほぐし,1本の茎を取り出してみよう @コケの葉の形や葉の細胞を生物顕微鏡で見てみよう |