コケ研究入門:自分で同定,研究できるために

  
 コケの面白さと難しさは,その微小さにあります.生物顕微鏡や実体(解剖)顕微鏡を使用することにより,コケの世界をのぞくことが可能になります.コケの図鑑に示されている図や写真は,実は,そのような微小な世界なのです.

 

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ステップ1

コケの主な仲間を代表する普通種をわかるようになろう

(まずは,とにかく,代表的な種類をおぼえよう)

 

目標:

1.庭や公園,山地や渓谷で,特徴的な普通種(目レベルで蘚類の20種程,苔類の10種程)をおぼえる

2.配偶体と胞子体における形態の概略がわかる

  (茎の伸び方,分枝の仕方,胞子体の有無やでる位置がわかる)

3.実体顕微鏡下でやさしい作業ができる

  (実体顕微鏡下で茎を取り出す,葉をはずすことができる)

4.光学顕微鏡を使えるようになる

  (コケの葉形,中肋,葉身細胞を光学顕微鏡で観察できる)

5.採集と標本作成ができる

 

具体的内容:

-1 目レベル(マゴケ類に15目がある)での特徴的な普通種をおぼえよう

 (図鑑や写真集をみる;標本を見る;野外で生育状態を見る)

 (生育環境,群落の様子,1本の茎での枝や葉の付き方,葉の形と中肋や葉身細胞の形態,胞子体の様子を
 知る) 

 (地域によって適当な種を選ぶこと;各地で異なる;庭や公園,山地や渓谷など) 

 西日本での普通種

  1-1オオミズゴケ(高山から山地の湿原)

  1-2クロゴケ(高山の岩上)

  1-3オオスギゴケ(コスギゴケ,ウマスギゴケ)

  1-4トサカホウオウゴケ(ホウオウゴケ)

  1-5カモジゴケ;キンシゴケ,ヤノウエノアカゴケ;エビゴケ

  1-6ハマキゴケ

  1-7シモフリゴケ(エゾスナゴケ),ヒナノハイゴケ

  1-8ヒョウタンゴケ

  1-9ハリガネゴケ,カサゴケ;ケチョウチンゴケ;タマゴケ;ヒノキゴケ

  1-10タチヒダゴケ,カラフトキンモウゴケ

  1-11コウヤノマンネングサ(フジノマンネングサ,フロウソウ);ヒジキゴケ;チャボヒラゴケ(エゾヒラゴケ)

  1-12アブラゴケ,クジャクゴケ

  1-13トヤマシノブゴケ;アオギヌゴケ;ヒロハツヤゴケ;カガミゴケ;ハイゴケ;フトリュウビゴケ

-2 野外(公園,山地の渓谷,亜高山など)で特徴的な普通種(上記)を採集しよう

1-3 採集品を標本にしよう

1-4 実体顕微鏡を使って,採集したコケをみてみよう 

    実体顕微鏡下で同一種かどうかを区別しよう(葉の形は同じか?)

    実体顕微鏡下で,ピンセットを用いて茎を取り出し,葉をはずしてみよう

1-5 群落の小さな一つまみで,茎の一つ一つをほぐしてみよう

    新しい茎(葉が鮮緑色)と古い茎(葉が茶褐色か白色に)を区別しよう

    新しい茎は古い茎のどこから(基部,中ほど,先端付近)でるか

    茎と枝を区別しよう(枝は茎よりも細い)

    次茎と2次茎,直立(立つ)茎とほふく(はう)茎がある場合は区別しよう

    胞子体は茎のどの場所から(茎の先端か,途中からか)のびでているか

1-6 光学顕微鏡で,コケの葉形,葉身細胞の形を観察しよう

    (目レベルで葉の形,葉身細胞の形がどのように違うかを知ろう)

1-7 配偶体と胞子体における基本形態の概略を知り,区別できるようになろう.

      配偶体:茎,葉,抱葉,仮根

      胞子体:剳ソ,胞子嚢,剋普Cフタ,帽

 

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ステップ2

科レベルを代表する普通種を分かるようになろう

 (科を代表する種類をおぼえるとともに,同定するために必要な基礎的形態をわかるようになろう.また,検索で確認してみよう)

 

目標:

1.身近な公園,山地や渓谷に生育する普通種を同定できる

2.同定に必要な器官とその形態を実体や光顕を使って観察できる

3.検索を使ってみよう.学名に関する基礎的なことが知る

 

具体的内容:

2-1 ステップ1でおぼえた種を,さらにひろげて,科をなす主な  属や特徴のはっきりした普通種をおぼえ
  よう(蘚類で約
60科がある)(科レベルで,だいだいどの辺の仲間か,野外で判断できるように)

2-2 葉の形態(乳頭,翼細胞)を観察しよう

2-3 茎や葉の横断切片を作成し,茎や中肋の内部形態を観察しよう

2-4 配偶体や胞子体の成熟状態がわかるようになろう

2-5 雌雄を判定しよう(造精器,造卵器を観察できるようになろう)

2-6 胞子体の保護器官(雌抱葉,帽)を観察しよう

2-7 さく歯の形態(1重,2重)を観察しよう

2-8 種名が正しく同定された標本を使い,属の検索,種の検索をたどってみよう

2-9 学名に関する基礎を知ろう

 

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ステップ3

図鑑を使って,同定できるようになろう

 (自分の採集品を自分で同定できるようになろう)

 

目標:

1.図鑑の検索を使い,採集した大部分を同定することができる

2.属レベルで,だいだいどの辺の仲間か,野外で判断できる(蘚類で約300属がある)

3.微細器官(蘚類:毛葉、偽毛葉,葉腋毛,無性芽,口環,気孔)を正確に観察できる

4.標本の管理,保管ができる(学名変遷の追跡ができる)

5.同定に必要な文献を収集できる

 

具体的内容:

3-1 各種が,その属内で,どのような形質で分類されているかを知ろう

3-2 形態を観察し,図鑑の形態記載と比較しよう

3-3 観察した形態を図示しよう

3-4 観察した資料標本の成熟度からどのように繁殖しているかを知ろう

3-5 文献を調べて,各種の生育環境や分布を知ろう

 

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