「植物」と友だちになるために 岡山理科大学・自然植物園 西村直樹 (revised May 11, 2009)
「地球」上には,たくさんの,さまざまな「生き物」が生きています. でも,今,多くの種類がその姿を消しつつあります. どうしてでしょうか? 「地球」はどうなっているのでしょう? 私たちはどうしたらいいのでしょうか? 私たちが生きている「地球」と私たちの仲間である「生き物」たちのことをもっとよく知ることにより答えを出すことができるかもしれません. 「植物」は,「生き物」の中でも,私たちが生きていく上でとても大切なパートナーです. どんな仲間があるのでしょうか? どのように生きているのでしょうか? 「植物」を知ることにより,私たちの回りの「環境」,さらに「地球」がどうなっているかを知ることができます. 「植物」が教えてくれることを分かるためには,「植物」と友だちになる必要があります.まずは,何の仲間か? そして,種名も分かるようになれば,お友達ですね. さあ,「植物」と友達になるために,まずは「植物」の主な仲間を区別できるようになるという最初の一歩を踏み出してみませんか!
1.「植物」とは? 1-1「地球」の歴史と「生きものたち」 地球は46億年前に誕生しました.「水の惑星」と呼ばれるほど,「水」が豊富な星です. 「水」のふしぎな性質が「生命」を生み出しました.40億年前のことだそうです.「地球」と「生命」の活動は,地球の環境(水,光,大気など)を変えつづけてきました.新しい環境には新しい「生き物」が進出し,さらに,新しい生き物たちはより新しい環境を生み出しました.このようにして,現在みられるさまざまな「生きものたち」と,現在の地球環境ができてきたのです.現在の地球環境は「生きものたち」によって作られたと言っても言いすぎではないでしょう.そして,今も,私たちが生きていける「環境」をささえてくれているのです.
1-2地球上の生き物は大きく5つに分けられます 現在,私たちにとって身近な生き物は,「動物」,「植物」,「菌類」でしょう.これらの3グループは,「生命」としての多くの共通性をもっていますが,栄養分の取り方や増え方,また体の作りなどが,お互いに,まったくことなっています.「動物」の仲間は7億年前ぐらい,また,「植物」や「菌類」は5億年前ぐらいに出現したと考えられています. 地球上には,さらに,2つの生き物の仲間がいます.その一つは,藻類や原生動物,変形菌などの仲間(原生生物界)です.一つの細胞からなる私たちの眼では見えないほど小さなものから,海に生育するホンダワラなどのように巨大なものまであります.今から20億年ほど前に,地球上に現れ,この仲間の中のあるものが,「動物」や「植物」,そして「菌類」へと進化していったと考えられています. 最後の一つは,細菌やシアノバクテリアの仲間(モネラ界)です.とても小さく(大腸菌で,2/1000 mmほど),また,原始的な作りをしていて,地球の生命の祖先と考えられています.この仲間の最も古い化石として,34億年前のものが発見されています.現在も地球上のいたる所にいて(私たちの体内にも!),いろいろなものを分解するなど重要な働きをしています. 1-3「植物」って何? 今から4〜5億年前,藻類の中で緑色をした色素(葉緑体)をもつ仲間(緑藻類)が,水中から陸上へ上がって生きていくことを始めました.これが「植物」の祖先です. 水中の生活に比べると,陸の上ではいろいろなメリットやデメリットがあります.陸上では,酸素が多い(より活発な活動を行うことができる),光がよくあたり,二酸化炭素が多い(光合成をより活発に行なうことができる)のはメリットです. でも,陸上では,有害な(DNAを破壊する)紫外線がふりそそぎます(オゾン層が防いでくれている),また水はどこにでもなくて,しばしば乾燥します.このため,「植物」は,水の中でなくても生きていけるような体の作りや受精方法を進化させました. このように,「植物」は,陸の上でのメリットを生かし,デメリットを克服する方法を獲得することによって,陸の上でも生きていけるようになったのです.陸に上がった「植物」は,その後,さらに,乾燥に耐えて生活したり,繁殖することができる体の作りや方法を発達させ,コケからシダ,さらに裸子植物から被子植物へと進化していきました. 1-4「植物」の仲間 「植物」の仲間は,次の4つがあります.いずれも,主に陸上で生活し,光合成を行ってエネルギーを得ています. 1) コケ 最初に陸に上がった仲間の子孫です.4億年ほど前に繁栄していたようです.水分を吸収する「根」 仮根(かこん)とよばれるもので地面,岩や樹木に付着します. 胞子(ほうし)で増えます.胞子が発芽して植物体(配偶体)になり,その植物体上に精子(せいし)と卵(らん)をつくります.受精(じゅせい)をするとき,水が必要です.精子(せいし)は水中を泳いで卵(らん)にたどり着きます. 受精した卵は,胞子体(胞子をつくるからだ)になりますが,植物体(配偶体)の上に寄生的に生育します. 2) シダ 3億年ほど前に(古生代,石炭紀)に繁栄していました. 「根」をもち,「根」から水分を吸収し,からだをささえます. 胞子で増えます.胞子は発芽して「前葉体」になります.この上に精子や卵がつくられます. 受精をおこなうとき,水が必要です. 受精した卵は胞子体になり,これがシダの植物体です. 3) 裸子植物 1-2億年ほど前(中生代)にさかえました. 水がなくても受精することができ,雄花の「花粉」(かふん)が,雌花の「胚珠」(はいしゅ:この中に卵がある)に飛んでいき受精を行います.受精を行うのに水を必要としていません.胚珠は,はだかの状態です(これが「裸子」の意味です). 授精すると「たね」が作られ,「たね」で増えます. 4) 被子植物 6千5百万年ほど前から現在にいたるまで(新生代),さかえている仲間です. 裸子植物の胚珠がはだかの状態であるのにたいして,被子植物では胚珠が,子房(しぼう)とよばれる組織によって守られていて,より乾燥に耐えることができるようになっています.
1- 5「植物に似た仲間」 「植物」によく似ているのですが,体のつくりや繁殖方法,またエネルギーの得方が異なるものがあります.主なものとして,次の3つがあります. 1) 菌類(きんるい) シイタケやマッタケなど「キノコ」の仲間です. からだは,菌糸(きんし)という細胞が糸状になったものからできています. 細胞の中に光合成をおこなう色素をもっていません.このため,体は白っぽい色をしています. ほかの動植物に寄生して栄養分をとります. 胞子でふえます. 2) 藻類(そうるい) いわゆる「藻(も)」の仲間です.おもに,水の中で生育し,光合成を行ないます.種類によって,さま からだは,単細胞,糸状,葉状になります.葉状のものでは茎(くき)と葉(は)がはっきり区別できま 3) 地衣類(ちいるい) 菌類のような,また藻類のような不思議な仲間です.これは,ある菌類とある藻類が共生してできている生き物です.菌類の菌糸がからだをつくり,その菌糸の間に藻類が入り込んでいます. 藻類が光合成を行ない,菌類に栄養分を提供します.
2.「植物」のいろんな仲間を探してみよう 「植物」の仲間は,どこで,どのように生きているのでしょう? 部屋から外に出て,庭,キャンパス,近くの公園,野原,川や海や山にいってみましょう.自分の眼で見た一つずつを,「これは何かな?何の仲間かな?」と,話しかけてみましょう.ちょっと見た目はよくわからないものでも,手にとって,ルーペで見てみると,「植物」の中のおもな何の仲間かが分かります.
2-1 ルーペを使いこなそう! 1)右手でルーペを持ち,右目に近づける(1cmほど離す). 2)左手に観察したいものを持ち,ルーペにゆっくり近づける. 注意1.ルーペがぶれないこと (ルーペをもった親指のつけねを右頬にあてて固定する) 注意2.見たいところが明るくなるように. 注意3.ルーペで太陽を見ないこと!
2-2「植物」と「植物に似たもの」のおもな仲間を見分けよう! まずは,「植物」の仲間や「植物に似たもの」のおもな仲間を区別してみましょう. だれでもが簡単にできます.「植物」の仲間には主なものとして,コケ,シダ,裸子植物,被子植物があります.「植物に似たもの」には,菌類,藻類,地衣類などがあります. 見分け方のポイントその1:どのようにして栄養分を得ているか?を考えてみよう @緑色をしている→葉緑体を持つ→光合成を行なっている: 緑藻(りょくそう),コケ,シダ,裸子植物,被子植物 @白っぽい→葉緑体を持たない→光合成を行なわない: 菌類
見分け方のポイントその2:どのようにして増えるか?を考えてみよう @「胞子」で増える:シダ,コケ,菌類など(「花」を咲かせない) @「たね」で増える:裸子植物,被子植物(必ず「花」を咲かせる)
見分け方のポイントその3:体の作りはどうなっているか?を考えてみよう @植物体は糸状(糸状体),または糸状のもののかたまり:藻類,菌類 @植物体はペタっとしている(葉状,葉状体)(体全体で光合成をおこなう): コケ(タイ類の一部,ツノゴケ類),藻類,地衣類 @植物体に「茎」と「葉」が区別できる(茎葉体)(葉で光合成をおこなう): コケ(セン類,タイ類の一部),シダ,裸子植物,被子植物 @植物体に「茎」と「葉」と「根」が区別できる:シダ,裸子植物,被子植物
2-3「植物」の仲間を見分けよう! コケ,シダ,裸子植物,被子植物も簡単に区別できます. 見分け方のポイントその1:体の作りを見てみよう @「根」がない(仮根:付着するだけ:体全体で水分を吸収する):コケ @「根」がある(根で水分を吸収する):シダ,裸子植物,被子植物 *茎や葉に「維管束」(いかんそく)は発達しない(水や栄養分は細胞から細胞へ送られる):コケ *維管束が発達する(水や栄養分を体のすみずみに送ることができる):シダ,裸子植物,被子植物
見分け方のポイントその2:どのようにして増える?を見てみよう @胞子で増える(胞子体や胞子嚢という胞子を作るところがある):コケ,シダ @たねで増える(花を咲かせる):裸子植物,被子植物 *胚珠がはだか(マツぼっくりのりん片をとると,内側に胚珠が見える):裸子植物 *胚珠は子房(めしべの基部のふくらみ)の中にある:被子植物
2-4どんなところで生きているのか?をよく見てみよう! 生き物とより仲のよい友達になるためには,その生き物になったつもりで考えてみるのが大切です.「光」は,いつ,どのようにあたる?「水」は,いつ,どのようにしてえることができる?「受精」や「繁殖」は,いつ,どのように行うと効果的かな?と考えてみてください. おもな仲間が区別できるようになれば,「これとこれは同じ種類!これは違う!」という種類の違いも簡単にできるはずです.生き物は,どんな種類でも,必ず,「こんなところが好き,こんなところなら生きていける」という場所がありますので,生育場所をおぼえておくと,別の場所でも,また同じ種類にであうことができます.
3.おわりに 私たちの身の回りにあるさまざまな「生き物」たちは,「生命」の40億年の歴史を通して生まれてきました.さまざまな「生き物」の活動によってもたらされた「環境」があって始めて「人類」が誕生することができました.私たちが生きている,そして生きていける「自然環境」は,今も,地球上のさまざまな「生き物」の活動によって,ささえられています. 「生き物」と友達になって,私達の身の回りにはどんなに多くのさまざまな「生き物」がどのように生きているかを見てみましょう.「植物」は,私たちの「環境」がどうなっているか,「地球」がどうなっているかを教えてくれるはずです.
おすすめの図書−より詳しく「地球」と「生き物の仲間」を知るために 「生命と地球の歴史」 丸山茂徳・磯崎行雄著 (1998年) 岩波新書 「Oh!生きもの」M. Hoagland & B. Dodson著 中村桂子・中村友子訳 (1996年) 三田出版会 「図説・生物界ガイド 五つの王国」L.Margulis & K.V.Schwartz著 川島誠一郎・根平邦人訳(1987年)日経サイエンス社 |