「コケがわかる」蒜山コケ集中講座テキスト (2004/04/24-25 by N. Nishimura)
はじめに
1.「コケがわかる」とは? 野外でコケを見て,あるいは室内で標本を見て,「これは,これこれだ」と種名(あるいは属名,何の仲間か)を言える,それが合っている,ということでしょうか.では,「これは,これこれだ」と言えるために,私達は何をしているのでしょう? 1.コケを見て,特徴をつかむ 2.その特徴に応じて,どの仲間か,どの種か,自分の記憶・知識や図鑑の図や記載と付き合わせる 3.その結果,「この仲間,あるいは,これこれの種」と判断するということを頭の中で,あるいは図鑑を
2.いかに特徴をつかむか. まず,眼でみます.「肉眼」による特徴は,生育場所と環境,群落の状態や色合い,茎の伸び方や枝の出方,葉のつき方,開き方や巻き方,また色合いなどにより判断しますが,種ごとに,自分自身で「この種は,こんなところで,こんな感じで生育している」というものをつかむ必要があります.
ところが,コケは,同じ種類であっても,いつも「同じ顔」をしているわけではありません.生育場所の違い(生育環境の違い)や植物体が乾いているか濡れているか,あるいは,植物体の成熟度の違いによって,時にかなり異なった「顔」になります.
このため,確実な特徴を,ルーペ(10倍から20倍),また顕微鏡(5倍から400倍)を用いてつかむ必要があります.ルーペや顕微鏡を用いた場合には,図鑑に図示されたり,検索に示されている形態的特徴を観察しますので,「だまされる」ことはありません.ルーペで葉の形や葉の尖り方,葉縁の鋸歯を観察するだけでも,肉眼だけで判断するよりは,ずいぶんと,より正確な同定ができます.
コケをわかるようになるためには,顕微鏡の使用は,確実に種名を確認するために,どうしても避けて通れません.必須の作業です.顕微鏡を使わなくてもコケがわかるようになることは,特徴のはっきりしたいくつかの種類を除いて,まず無理でしょう.
3.予備知識が必要 「ものを見て,特徴をつかむ」ということは,自分の知識(頭の中のコケの体系,あるいは種や仲間ごとの引出し)のどれに当てはまるかを探す,という作業です.従って,予備知識をしこんでおく必要があります.
まず,「特徴」というのは,私達は主に,形の違いとして理解していますので,コケの基本的形態(コケ植物体がどんなパーツ,器官から作られているか)を,まずは,知っておく必要があります.成長するに従い,どのようになるか,なども知っておく必要があります.
さらに,コケの仲間分けというのは,そのパーツ,器官が,「この仲間では,こうなっている,こういうふうに異なっている」,として分けられていますので,「コケにはどんな仲間があるか,そして,それぞれがどんな特徴でもって分けられているか」,を知っておく必要があります.
ところで,保育社の原色コケ図鑑と平凡社のコケ図鑑を合わせると,コケをわかるようになるために必要な予備知識のほとんどが書かれています.どうぞ,難しいと思えるところは必要な時に読み直せばいいですから,ぜひ読んでみて下さい.
4.いかにしてコケをおぼえるか,わかるようになるか 繰り返し何度も経験するしかないようです.そのために最も効果的なのは,採集・観察したものを「標本」として残すことでしょう.その標本を見るたびに,「どんな所で,何の上に,どんなふうに生育していたか」という情報を,自分の中で再確認することができます. 同じ種のいくつもの標本を持つということは,その数だけ,その種に関する情報が,自分の中で,積み重ねられることを意味します.その結果,「この種は,こんな所に,こんなふうに生育する」と,わかるようになることになります.
Lesson 1 野外で探す・区別する・何の仲間か・採集する (「これは何?」と思ったら,とにかく,ルーペで見る!)
(1) 探す:微環境,基物の違いによって異なる種が生育する (2) 区別する:野外で,別種か同種かを判断できることが大切. 肉眼による区別の他,ルーペや携帯実体顕微鏡を使用すると区別し易い.
コケの見方: 「離れてみる」:群落の形,色合い, 「近づいてみる」:植物体(茎)がどのように群落を形成しているか? 茎の伸び方,枝の出方 葉の形,つき方,開き方・巻き方,色合い 胞子体・帽,の有無,成熟度 「手にとって見る」:葉の形,先端の形状 (包葉に隠れている)胞子体・帽,の有無,成熟度 「ルーペ・ファーブルミニで見る」:葉の形,鋸歯の形状,中肋の状態 胞子体:さく歯の形状
(3) 何の仲間か? 環境に応じて,出現する可能性が高い種を知っておくこと. 予め,どんな種が生育しているかをチェックし,その生態写真や 解剖図,特徴を把握しておくこと.(マイ・チェックリストを用意しよう!) (4) 採集する 生育環境(光,遮光物,水,湿気など),基物,特徴などを記載する
Lesson 2 顕微鏡で観察する
(1) 顕微鏡使用上の基礎 必要な小道具:(「コケ類研究の手引き」の形態観察法を参照) 顕微鏡の仕組み:(低倍から高倍へ,絞り)両目で視力を調整して見る プレパラートの作り方:(試料を薄くする)(封入剤を使う) (2) 実体顕微鏡を使う:(覗きながらの解剖作業に慣れること) 採集品を見る(混じっている別種の有無,肉眼・ルーペ観察の補完) 観察試料の取り出し・解剖(茎を取り出す,葉を取り出す, 雄花,雌花を探す,胞子体を探す) (3) 光学顕微鏡を使う:(葉の形,葉身細胞,乳頭をみる;微細器官をみる)
Lesson 3 コケの図鑑を使う
(1) 図鑑とは? 種の並べ方(分類体系順):門,綱,目,科,属,種,(亜種,変種,品種) 何が掲載されているか. 科の特徴説明,属の検索 属の特徴,説明;種の検索 和名;学名;図の表示;形態・生態・分布・近似種との違い 図鑑の基になったデータ(分類研究者は何をしたのか) (2) コケ図鑑の使い方 絵合わせ−最も近いものを探せ! (同時に,確実に「違う」,「この仲間ではない」ものもチェックする) (検索をたどる:(ある科の)属の検索:(ある属の)種の検索) 確認する:記載を読む,線画と照合する(違う場合は,他の可能性を当たる) (3) 同定に必要なコケの図鑑: 保育社の原色日本蘚苔類図鑑:線画,形態の記載が充実 平凡社の「日本の野生植物コケ」:生態写真,ほとんど全ての種の検索がある 蘚類:A. Noguchi「 Illustrated Moss Flora of Japan I-V」. タイ類:児玉務の「近畿地方の苔類」 (中・上級者は原論文をあたること) (4)「マイ・コケ図鑑」を育てよう! 図や写真のプレート:同じ属,同じ科,同じ目であることを分るように印をつける. 種:自分が見たことがあるものに印を付ける(標本番号,生育場所・環境, 肉眼による特徴などを書き込む;現在の種名を記す)
Lesson 4 蘚類の形態を知る
(1) コケ植物の生活史:胞子−配偶体−受精―胞子体 (2) 蘚類の基本形態,器官を知る 配偶体:茎,枝,枝原基,偽毛葉,毛葉,仮根,葉腋毛 胞子体の基本形態:ふた,さく歯,口環,朔壁,頚部,気孔 胞子体の成長とその保護器官 雌花,雄花の形態
Lesson 5 タイ類の形態を知る
(1) タイ類の基本形態,器官(茎葉性,葉状性) 茎,葉,腹片,腹葉,仮根,花被,胞子体 (2) ツノゴケ類の基本形態,器官
Lesson 6 コケを切る
(1) 切る時のコツと注意点 (2) 横断切片:茎を切る,葉(中肋)を切る (3) 縦断切片:胞子体,鞘を切る
Lesson 7 主な仲間を知る
(1) 苔類の大きな仲間分け(亜綱,目,科):児玉の「近畿地方の苔類」を参照 (2) 蘚類の大きな仲間分け(亜綱,目,科) (どのように分けられているか?特殊なものを除外していくと理解し易い))
Lesson 8 学名の話;標本ラベルを作る
(1) 学名とは 属名+種小名+命名者名(in, ex) 種名の変遷(他種と同じ,他属へ移った,ランクが変更した場合にどうなるか) 学名の変遷をいかに追いかけるか(Catalogやチェックリストの使い方) (2) 標本ラベルを作る 標本として必要な項目: データベース(アクセス)を使ったラベル作りの実際 @まず,ラベルを作る(同定,命名は後でよい) @必ず,学名(属名だけでも)をつけよう(整理,並べるため) (3) 標本の扱い方 標本庫標本の扱い方,注意点 重複標本(Duplicate)とは?
Lesson 9 蘚類を同定する
Lesson 10 タイ類を同定する |