宇宙☆自然講座
地球の公転と植物の戦略
岡山理科大学総合情報学部 生物地球システム学科 波田善夫
日時:7月9日(土曜日) 15:00〜16:30
場所:鴨方町民会館
参加費無料、申し込みも要りません
はじめに
鴨方町教育委員会と岡山天文博物館の共催で、「宇宙☆自然講座」が始まりました。講演の依頼を受けたとき、宇宙と自然(植物)・・・・どうしよう!?と思いましたが、日照条件と植物の関係も大きな研究テーマの1つですので、太陽の年間変動と植物の関係について話してみようと思います。
地球は太陽のまわりをほぼ1年かけてまわっており、これを公転という。地球はほぼ1日で、1回転(自転)しているが、この自転軸(地軸)は、公転面に対して23.4度傾いる。このために、日本における夏では北半球を中心に太陽の光が当たることになり、冬はその逆となる。自転軸が傾いていることによって、中〜高緯度の地方では、太陽の当たり方が違うことになり、その結果、季節が生まれる。地上から見た太陽の高さは、正午前後にもっとも高くなり、このときの太陽の地表面からの角度を南中高度とう。南中高度は夏至で最も高く、真上に近い角度になるが、冬至では地表面から30度をわずかに超える程度にしか昇らない。夏至と冬至では、47度もの違いがあることになる。
植物は光によって光合成を行っているので、季節によって異なる太陽の光に対して、もっとも効率のよい戦略を採用しているに違いない。
1.太陽の軌道と樹木の形
赤道付近では、太陽の南中高度は、天頂(真上)から±23.4度の範囲で変動する。つまり、ほとんど一年中、真上付近から太陽の光が当たることになる。このような光環境の場合、どのような葉を持ち、どの様な位置に葉を付けることが効率がよいのであろうか? 個々の葉としては、光が来る方向が予想できるので、光が来る方向に幅広い、広葉が適している。葉の配置は、半球型が効率よい。半球型の樹冠を持つ広葉樹がこのような地域には適していることになる。
高緯度地域ではどのようになるであろうか。北に行くにつれて、夏至の南中高度は低下する。日本の最北端の稚内は北緯45.5度であり、夏至では68度まで太陽が上昇するものの、冬至では地平線から21度まで昇るに過ぎない。モスクワ(北緯55度45分)では、夏至の南中高度は58度まで高くなるものの、冬至では11度までしか昇らない。植物が生育できるのは、気温が上昇した6月から9月の短い期間であり、太陽の軌道から言えば、夏至から秋分の間である。岡山に比べて、日の出と日没の方角は、ずいぶんと北よりであり、北東から太陽が顔をだし、南の低い位置を通過して北西に沈む。つまり、太陽はわずかに水平線から下に沈むことがあるものの、周囲をグルッと回ることになる。
このような高緯度地方では、様々な方向から光が来るために、葉の形は方向性のない針葉が適している。葉の配列も、横方向から光が来ることを期待した配列となる。その形が、三角錐の針葉樹の樹形である。
2.日照と気温の狭間で生きる「春の妖精」
日本は四季が明瞭な中緯度地方に位置している。岡山では、夏至では太陽の南中高度は真上に近い80度ほどに昇る。「夏」という言葉からは、気温の最も高い8月をイメージすることが多いが、夏至は6月の21日前後であり、梅雨の始まる頃である。春分は3月の20日(21日)であり、まだ寒さを感じる時期である。3月から4月にかけては、太陽の南中高度も比較的高く、光の条件としては良いにも係らず、気温としてはまだ低い。このような気温が低いが光条件がよい季節、低温でも成長できる能力があれば、大きな利益を得ることができる。
コナラなどの落葉広葉樹が、まだ十分に葉を広げていない3月から4月にかけての短い期間に葉を広げ、花を咲かせる植物たちがいる。早春植物と呼ばれる植物たちである。雪どけ直後から芽生えて成長し、落葉広葉樹が葉を展開する前に花を咲かせ、結実し、5月頃になると休眠してしまう。1年のうち、2ヶ月から3ヶ月しか地上部に姿を見せないのである。代表的なものには、カタクリ、セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲ、ユキワリイチゲなどがある。
これらの早春植物は、落葉広葉樹林の林床での生育に適しており、常緑広葉樹林では早春でも光が当たりにくいので、生育はできない。本来はアラカシなどの常緑広葉樹が生育する場所であっても、常に伐採しているような場所では、これらの植物の生育が可能である。武蔵野の雑木林は、農用林として長い年月刈り取りが行われてきた。このためにカタクリなどが早春には見られたものである。
自然の状態の中で、常緑広葉樹が生育しにくいのはどのような場所であろうか。一年中、葉を維持している常緑樹のメリットは、落葉樹が葉を落とした秋から春までの間、光合成が可能であることである。逆に言えば、この時期に光が当たりにくい場所では、常緑樹が生育しにくいことになる。この時期、太陽の南中高度は35度から55度程度である。北向きの急斜面では、冬には直射日光が当たりにくく、常緑樹は生育しにくい。そのような急斜面でも、3月になると光が当たり始め、4月になると十分な光が当たることになる。このような光と温度の狭間に、春の妖精たちは生育しているのである。
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