蛇紋岩と蛇紋岩を基盤とする地域に生育する植物



蛇紋岩はマグネシウムを含む超塩基性岩
 蛇紋岩は暗緑色から黄緑色の岩石であり、ヘビの皮の模様をイメージさせる模様がある。地学的には、蛇紋石を主成分とする岩石を蛇紋岩という。となると、蛇紋石とはどのようなものなのか? 「蛇紋石」は鉱物名であり、石ころ全体を指すわけではない。蛇紋石はMg(Si2O5(OH)4の化学組成を持つ鉱物族である。したがって、蛇紋岩はマグネシウムを多量に含む岩石であることになる。
 蛇紋岩は蛇紋石の他にクロムやニッケルを含んでいることが多い。クロムは比較的多量に含まれているが、難溶性の鉱物中に含まれており、植物の生育に害を与えることは少ないが、ニッケルは時として植物に障害を与えることになる。また、多量に含まれるマグネシウムが植物の水分吸収能力を低下させるとも言われている。
 蛇紋岩が風化して形成される土壌は明るい赤色となり、土壌粒子間の結合が弱いために土壌中に水分を含むと液状化や地層の流動を起こしやすい。このために蛇紋岩を含む地層がある地域では、大規模な斜面の崩落や地滑りが発生しやすい。
蛇紋岩蛇紋岩

蛇紋岩植生
 蛇紋岩地帯の植生は、周囲の植生に比べて特異な植物群からなっていることが多く、北海道のアポイ岳の高山植物群落は特別天然記念物に指定されており、尾瀬の至仏山も同様に有名である。このような高山植物群落は、周囲の通常の岩石地域に発達しているものに比べ、低い海抜高度でも発達していたり、その地域特有の固有種が生育するなどの特徴がある。
 低地の蛇紋岩地帯では、貧弱なアカマツ林となったり、ツツジ類が有占する低木群落になることが多い。このような植生は、過剰なマグネシウムの存在が、植物の水分吸収能力を低下させるという説でうまく説明できる。
 蛇紋岩地域であっても、土壌が厚く堆積しているような場所では母岩の影響が少なくなり、普通の植生が発達する。土壌が薄い急傾斜地や母岩の影響を直接受けることになる露岩地ではもっとも蛇紋岩地域らしい植生が発達することになる。このような場所では特異な化学組成に耐えることのできる植物や根の浅いツツジ科植物、アカマツなどの乾燥に耐えることのできる植物などからなる貧弱な植生が発達することになる。生存競争が低いことも加わって、遺存種や貴産種などが見られることも多い。
 蛇紋岩地域においては、特に南向きの切り土法面においては緑化が困難である場合が多い。外来牧草などによる種子吹き付けは芽生えるものの、成長できずに失敗に終わることも多く、厚層基材の吹き付けも高い効果を発揮しにくい。慎重な対応が必要である。


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