植物のパイプモデル



 植物の葉量と枝の太さあるいは幹の太さに関して、一定の法則があれば、植物体の生産量や現存量の推計には便利である。しかしながら、そのような研究は多くはない。Shinozaski et. al(1964)は葉量と茎(枝、幹)の量との関係解析を行い、葉量と茎の断面積の間に比例関係があることを示した。一定量の葉を支えるにはそれに対応した枝の断面積が必要であることを示している。このような関係から、一定量の葉がついたパイプを束ねたものが一本の植物であるとの考え方が成り立ち「パイプモデル」と呼ばれるゆえんである。
 このような関係は、葉重とそれを支える枝(または幹)の断面積(あるいは直径)の間に関係があり、大量の葉(あるいは果実などを含む)を支えるためには、それに対応した枝(茎)の強度が必要であると理解できる。別の観点からは、葉量とそれに水を供給する道管の本数(あるいは断面積合計)の間に関係があると理解することも可能である。

 ここで、茎や枝を円柱と考えて、力学的強さについて考えてみよう。円柱の棒の一端部Aを水平に固定し、他端Bの面の中央に重さWの物体をつるすとすると、棒の上層は伸びる方向に力がかかることになるし、下側の層は圧縮する方向に力がかかり、棒はたわんでB端は下がる。ABの長さをlとするとB端の下がる距離hは次式であらわされる。

h=4Wl3/3πEr4

 Eはヤング率であり、棒の材質によって異なる。この円柱を棒の枝として考えるならば、枝の根元にかかる力は枝の長さl(力のかかる点;重心までの距離)の3乗に比例し、曲げ力に対する強さは枝の半径rの4乗に比例することになる。

 この式がそのまま植物の茎に当てはまるとすれば、葉量と茎の断面積に比例関係があることにはやや問題点が残る。一方、葉量を支える道管が全て同じ直径を持つものからなると仮定すれば、葉量と道管数には比例関係が成り立つべきであり、道管数とそれが配置される茎の断面積には比例関係が存在すべきである。ただし、道管を単純なパイプであるとすれば、パイプの通道能力は直径の4乗に比例するので、わずかな道管の直径の増加により、大幅な葉量の拡大が実現できることになり、茎断面との比例関係は失われてしまうことになる。現実には、1本の茎の中には、異なる太さの道管が存在しているので、話は単純ではない。

 木本植物では、実際に水の通道に携わっている道管は表皮直下の数年分であることが多く、それよりも内側の道管は閉塞されるために水の通道には貢献していない。したがって、木本植物では茎の断面積と生きている導関数との関係は比例関係ではない。故に、茎の断面積を、道管を配置する場として考えた場合、断面積と葉量との間の比例関係は、草本植物では成り立つ可能性があるが、木本植物では齢を重ねるにつれて適合しなくなるはずである。

 パイプモデルは草本植物や灌木で良好に適合し、大きな樹木ほどモデルからはずれる傾向がある。上部の大きな重量を支える必要があるために、枝がなくても幹の下部がより太くなるためであると考えられており、これを考慮した改良パイプモデルも提案されている(Oohata & Shinozaki,1979)。

 パイプモデル:「葉量と茎の断面積との間に比例関係がある」は、断面の計測部位から上部の質量に関する係数が考慮されていない。したがって、茎の高さが異なっていても葉量が同じならば、同じ断面であることになる。幹あるいは枝が長ければ、根元にかかる曲げ力は大きく違う(力のかかる点までの長さlの3乗であるから)。しかしながら、現実にパイプモデルが成立すると言うことは、同じ環境に生育する同一種の植物では、他の個体よりも飛び抜けて葉量が多かったり、ひょろ長かったりする植物個体が存在しないことを示している。

参考文献



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