3.アレロパシーの例
A.一年生草本
イチビAbutilon theophrasti
イチビが生育するとダイズやワタは大幅な減収となる(Holm, 1979)。
減収率 ダイズ:14〜41% ワタ:44〜100%
イチビの生葉の水抽出液によりダイズの種子発芽が阻害される。
物質としてはフェノール化合物である(Colton & Einhelling, 1980)。
シバムギ Agropyron repens アメリカでは強害雑草
シバムギが生育するとトウモロコシやジャガイモは大幅減収となる
減収率 トウモロコシ:90% ジャガイモ:32%
シバムギが生育するとコムギの地上部の生産量が低下する
肥料を大量に与えても根から栄養素が吸収されない。
シバムギの水抽出液は、根の生育を阻害する
アキノエノコログサSetaria faberii
アキノエノコログサの根が存在すると、トウモロコシの根の成長は著しく阻害
トウモロコシとアキノエノコログサを交互に植え、培養液を循環した。
トウモロコシの生長は90%抑制された。
腐朽した草からは植物毒(ファイトトキシン)が浸出し、これによりトウモロコシの生育は50%抑制された。
キンエノコロ Setaria glauca
トウモロコシ、ダイズ、ソルガムなどで被害が大きい。減収率 トウモロコシ:7〜57%
抽出液は根や子葉、軸の成長を抑制する。
キンエノコロをすき込むと、トウモロコシやダイズは成長が抑制される(50%)
スイートクローバ Melilotus alba
トウモロコシの種子をスイートクローバの浸出液に24時間浸して植えると発芽や生育が阻害された
イネ Oryza sativa
イネ藁→イネの根の成長を阻害する(1ヶ月頃が最高)
窒素肥料の施用がアレロパシー物質の働きを低減する(?)
アカウキクサ、藍藻の共生により収量は50〜100%増加する。
イネわらの腐朽過程で生成された5種類のフェノール性酸が藍藻の生育を阻害する。
また、マメ科の根粒形成率を低下させる。
B.木本や多年生草本
クログルミ Juglans nigra
クログルミの木の下ではジャガイモやトマトが立ち枯れる。マツやニセアカシアも枯れる。
その傾向は、湿潤土壌地で顕著である。
原因はユグロン( 5-ヒドロキシ-α-ナフトキノン) 乾燥状態では分解されやすい。
アカマツ Pinus densiflora
抽出液により、多くの草本の発芽を阻害。毒物質は タンニン、p−クマル酸。
ニセアカシア、ニワウルシ、ビャクシン属(Juniperus)、マツ属、カシ類・・・・
非常に多くの優占群落を形成する植物でアレロパシー物質の生産が確認されている。
Salvia leucophylla(シソ科)
カルフォルニアの砂漠では、Salvia leucophylla(シソ科)およびArtemisia californica(ヨモギ属)の群落(A)の周囲には一年生草本が全く生育していないゾーン(B;幅1〜2m)が存在し、さらにその周辺(C;3〜8m)の幅では一年生草本がいじけた状態で生育している。
このような無植生帯に施肥しても植物は生育しないことから、栄養素の欠如が原因ではないことがわかる。
アレロパシー物質としては、6種のテルペン類が同定されている(α−ピネン、β−ピネン、カンフェン、カンファー、シネオール、ジテルペン)。テルペン類は気化しやすいので、高温期に空気中に放出され、周辺土壌に蓄積されると共に、離れた場所に生育する植物にも影響を与える。
4.アレロパシー物質の生産
主要なアレロパシー物質は特殊な物質ではなく、極普通の物質から形成されることがわかる。最終的なアレロパシー物質が形成されるまでのプロセスには不明な点が多く、植物体内で最終物質まで合成される場合とともに、植物から体外に放出された中間物質や植物体が腐朽する際に形成された中間物質が菌類やバクテリアなどの活動によって、最終的なアレロパシー物質として生成される場合も多いものと考えられる。
最終的なアレロパシー物質が生成されるプロセスに菌類やバクテリアなどの、他の生物が関与している場合には、話が複雑になる。すなわち、その植物が生育していても、土壌中の生物群集の違いによってアレロパシーが表れるかどうかが異なることになる。具体的には、腐植をたくさん含む土壌であるか、有機物をほとんど含まない土壌であるかによって、土壌中の菌類やバクテリアの種類が異なり、結果的にアレロパシーが発生したり、発生しなかったりするわけである。
5.まとめ
バクテリアからプランクトン、高等植物に至る全ての植物分類群においてアレロパシー物質の生産が認められている。植物は、我々の想像する以上に化学戦略を行っているわけである。
動けない(動かない)植物としては、当然の戦略であり、落ち葉や根から分泌する物質を通じて自らの生育立地を自らに適した立地に改良しているわけである。このような機能を有効にするには、群れて生育し、共同して対処する必要がある。植物が群を形成して生育している理由の1つを理解できる。