植生調査法 (2001/06/27改訂)
結果のまとめ方
方形区調査により得られた植生調査資料は、一覧表にまとめられ、植物の出現傾向や共存率などを参考にしつつ、整理する。一覧表として作成された素表は理解しやすい状況に整理されなければならない。素表の段階では、表の行は調査した順番に入力されており、出現した種は出現した順番であり、特に意味のあるものではない。
最終的な一覧表は、調査スタンド(列)と出現植物(行)が意味のある配列であることが望まれる。今回の植生調査では、調査スタンドと種の配列に関する序列方法(オーディネーション)の1つである、反復平均法を学び、その結果得られる指数と環境との関連を考察することとする。
1.データの入力
エクセルに植生データを入力する。入力形態は一覧表とし、「行」に種名を、「列」に調査地を入力する。入力し終わると、各種あるいは各調査地ごとに、出現種の出現回数を算出する。
今回は、数値変換するので、被度だけを入力し、群度は解析の対象としない。
2.データの数値化
植生調査資料は、「被度・群度」の形で記録されており、素データは「文字」で入力されることになる。文字では以後の数値解析に利用できないので、数値化する必要がある。数値化にはいくつかの方法があるが、次に2つの代表的な手法を示しておく。
○被度中央値への変換
例えば、被度5は75〜100%の植被率であるので、その中央値は (100+75)/2=87.5 であることになる。このように、それぞれの被度に対して被度中央値を算出し、その値に変換する方法である。
数値への変換方法としては理屈にあったものであるが、被度+と評価された場合の数値が非常に小さなものとなり、計算上無視される結果になってしまう欠点を持っている。
因みに、被度+〜5の中で、どこが最も大きなギャップかと言えば、実は出現するか、しないか が最も大きなギャップであって、被度4と5の間には、大きな違いはないのである(被度4と判定された植物が、2週間後に再度測定すると被度5になることは、良くある話です)。
○被度+〜5 を 1〜6 あるいは 0.5〜5 に変換する方法
被度+〜5 の6段階を1〜6 あるいは 0.5、1〜5 等のように変換することは、ずいぶんといい加減な印象がある。元々被度+〜5の各数値が同じ差を持つ数字ではないので、更に問題は大きい。しかしながら、長い経験により決められた+〜5の各段階は、植物の生育状況を評価するには適した階級であり、1〜6の数字に変換することの的確性があるのである。
ここでは、+〜5の6段階を1〜6の数値に置き換えることとする。
※今回はこの変換方法 +〜5 → 1〜6で行います。
3.オーディネーション(序列)
植生調査資料を入力したばかりの素表の段階では、表に内在されている情報を十分に読みとることができないことが多い。表を整理するために、調査スタンドの列を入れ替えたり、出現する種の順番を入れ替えて、植生の特徴と種の行動を読みとれる表を作成する必要がある。すなわち、行と列を一定の法則に則って配列し変えるわけである。
配列し直すルールに関しては、調査スタンドの順番では、例えば出現種数の多い(あるいは少ない)順番、1つの環境経度の順番(例えば相対照度や土壌の性質など)を利用すこともできる。種の配列に関しては、出現回数の多い順番やスタンドの配置に関連した、種の配列順などが考えられる。
このようなスタンドや種の配列の基準を何らかの統計的手法によって実現できないか? これに応える手法がオーディネーションである。各調査スタンドにおける種の出現状況(例えば、種組成やその植物の被度・群度)は変数としてとらえることができる。そのように見ていくと、素表は調査スタンド×出現種数のマトリックスと考えることができる。すなわち、素表の解析は、多くの変量に対する解析であり、多変量解析を適用することになる。
多変量解析では、多くの軸を算出することができるが、ここでは最も貢献度の高い軸を算出することとし、植生学でよく使用されている反復平均法を用いることとする。
反復平均法は、結果が安定するまで、反復して計算を行うものであり、最終的な結果が出ているかどうかの確認が困難であり、またデータ数が多くなると非常に多数回の計算を行う必要があるなど、いくつかの問題点を持っています。しかしながら、問題点のない統計的手法は無いのですから、割り切ってやってみましょう。
【反復平均法】
(1)素データ
素データは、表1のようなマトリックスとなっている。
@およびAは列および行の合計値である。この数字が大きいと言うことは、種が優占している あるいは その調査地の植被率が高いと言うことになる。
表1.素表の例
| a | b | c | d | @ |
オオバコ | 2 |
| 1 | 3 | 6 |
カゼクサ | 2 |
| 3 |
| 5 |
ヒメジョオン | 1 | 1 | 2 | 2 | 6 |
マメグンバイナズナ | 3 | 3 |
|
| 6 |
A | 8 | 4 | 6 | 5 |
|
@とAは列と行の合計値である。
表2.計算の過程
表中の数値は、表示の都合上整数値としている
| a | b | c | d | @ | BR0 | F | G | HR1 | JR2 | LR3 |
オオバコ | 2 | | 1 | 3 | 6 | 1 | 8 | 0 | 0 | 0 | 0 |
カゼクサ | 2 | | 3 | | 5 | 2 | 9 | 1 | 1 | 4 | 6 |
ヒメジョオン | 1 | 1 | 2 | 2 | 6 | 10 | 21 | 13 | 24 | 16 | 16 |
マメグンバイナズナ | 3 | 3 | | | 6 | 10 | 61 | 53 | 100 | 100 | 100 |
A | 8 | 4 | 6 | 5 | | | | | | | |
C | 5.75 | 10.00 | 4.50 | 4.60 | | | | | | | |
D | 1.25 | 5.50 | 0 | 0.10 | | | | | | | |
EQ1 | 22.7 | 100 | 0 | 1.8 | | | | | | | |
IQ2 | 45 | 100 | 0 | 1 | | | | | | | |
KQ3 | 47 | 100 | 1 | 0 | | | | | | | |
MQ4 | 48 | 100 | 3 | 0 | | | | | | | |
@各種の値の合計値(ri)
種の被度の合計値を算出する(行の合計値)。出現の有無で反復平均を行う場合には、出現回数と同じ値となる。
A各スタンドの値の合計値(qi)
スタンドに出現する種の被度の合計値を算出する(列の合計値)。出現の有無で反復平均を行う場合には、出現種数と同じ値となる、。
B仮の種位置指数(R0)
この数字は、0以外ならば何でも良い。すべて同じ値でもかまわない。このデータでは踏圧と植生の関係が予想されるので、踏圧に強いと予想されるオオバコやカゼクサに小さな値を、これに弱いと予想されるヒメジョオンやマメグンバイナズナに大きな値を与えた。この「仮の種位置指数」が結果に近いものであれば、計算回数が少なくて済むが、どのような値をいれても結果は必ず同じ値となる(0と100が逆転することはある)。
C各スタンドに出現している種の値に、仮の種位置指数(R0;B)を掛けた数値の合計値を、そのスタンドのqiAで割る(縦計算)。
例:スタンドa (2×1+2×2+1×10+3×10)/8=5.75
D各スタンドの値からCの最小値を引いて算出する。
この場合は、4.50が最小値であり、10.0が最大値である。これらの数字から最小値4.50を引く。
EQ1 Dの値を0〜100に換算する。
Dの値は0〜(最大値−最小値)となっている。ここでは0〜5.50である。5.50を100にしたいわけであるので、例えばa欄であれば、1.25/5.5*100となる。
F EQ1の値を元に、今度は種位置指数を求める。
各種毎に種の値にQ1を掛けた値を合計し、その種のri@で割り、Fを求める(横計算)。
例:オオバコ (2×23+0×100+1×0+3×2)/6=8.67
注意:上の表は、表示の都合上、F以降のセルは、四捨五入して整数部分のみを表示してあります。したがって、「5」と表記されていても、実際には5.3であったり、4.8だったりするわけです。この点を考慮して表を読んでください。
Gそれぞれの種の計算結果から最小値を差し引く
HGの値を0〜100に換算する。 この値が第一回目の計算による種位置指数(R1)である。
IR1の値Hを元に、C〜Eの操作を行ってQ2を求める。
JQ2の値Iを元に、F〜Hの操作を行ってR2を求める。
以後、安定した数値になるまで交互にQnとRnを求める。
ここまでの計算過程を振り返ってみよう。Cの過程では、被度に仮の種位置指数を掛け合わせ、被度の合計値で割った(平均した)わけである。結果として、オオバコの仮の種位置指数(R0)は小さな値であるので、オオバコの出現するスタンドの位置指数(Q1)は小さな値として算出されることになる。もちろん、マメグンバイナズナの仮の種位置指数は大きな値なので、マメグンバイナズナが生育しているスタンドの位置指数は大きな値となる。
今度は、スタンド位置指数から種位置指数を計算したわけであるが、小さなスタンド位置指数のスタンドに出現する種は、小さなスタンド位置指数の値が掛け合わされることになるので、結果的に種位置指数は小さな値として算出されることになる。もちろん、大きなスタンド位置指数に出現する傾向の種は、大きな種位置指数が算出される。
中程度のスタンド位置指数のみに出現する種は、中程度の種位置指数が算出されるが、普遍的に出現する種も、大きな値と小さな値が相殺され、中程度の種位置指数となる。
4.結果の整理と解析
得られた指数の解説
表3のように、種位置指数とスタンド位置指数の順番に種とスタンドを再配列してみよう。すなわち、表を1つの基準によって再配列するわけである。
スタンド位置指数は、最も類似度の低い(共通性の低い)スタンドを0と100とし、その軸の上にそれぞれのスタンドを配置したものと解釈できる。この軸は、各調査地点における植物の出現状況(種組成)とその優占度(どの程度の量生育しているか)によって算出されているので、植物群落(植生)の違いを表していることになる。表3の例では、調査地dと調査地bが最も異なる群落であり、地点dと地点cはかなり類似性が高く、地点aの植生は、その中間的性質を持っていることがスタンド位置指数の数字からわかる。
同様に表3で種位置指数に付いてみてみよう。スタンド位置指数の小さな地点dとcに出現する傾向の高いオオバコとカゼクサの種位置指数は小さな値となっている。一方、スタンド位置指数が大きな地点bに出現する傾向の高いマメグンバイナズナは大きな首位地指数となっている。(オオバコ+カゼクサ)とマメグンバイナズナは喧嘩相手であることがわかる。
表3.結果
スタンド位置指数と種位置指数によって配列された表
| d | c | a | b | 種位置指数 |
オオバコ | 3 | 1 | 2 | | 0 |
カゼクサ | | 3 | 2 | | 6 |
ヒメジョオン | 2 | 2 | 1 | 1 | 16 |
マメグンバイナズナ | | | 3 | 3 | 100 |
スタンド位置指数 | 0 | 3 | 48 | 100 | |
解析結果と環境、あるいは出現植物との関係解析
これまでの解析で、植生の違いをスタンド位置指数として算出できた。この植生の違いと相対照度や植生高、植被率などとの関係をグラフとして表し、考察してみよう。それらの内容をもとに、もう一度整理された表(表3)に立ち戻り、環境と個々の植物の関係を考えてみよう。
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