T.群落の構造と分布
1.群落の構造
    (1)森林の階層構造
     植生は発達するにつれて階層構造が分化する。特に森林では階層の分化は顕著であり、日本では高木層、亜高木層、低木層、草本層の4層に区分することが多い。しかしながら樹高の高い森林では更に階層が分化していることも多く、低木層を低木層1,低木層2に細分する必要があることも多い。一方、尾根などの痩悪地では年月を経ても高木層が発達せず、樹高10m以下の亜高木林にとどまることも多い。環境が豊かであるほど植生の高さは高くなり、多数の階層が発達することになる。

    • 高木層はその立地において優占する樹木によって構成されていることが多く、年月をかけて生長し、長い寿命を持っていることが普通である。その森林の支配者であり、最大の生物体量(バイオマス)を保有している。
    • 亜高木層は、次の世代の高木層を担う樹木と高木ほどには生長できず、高木層の庇護のもとに生育する樹種によって構成される。
    • 低木層は、高木層・亜高木層を構成する樹種および低木で生育することを得意とする樹種によって構成される。
    • 草本層は、様々な樹木の幼い個体や草本によって構成される。
    • この他、コケ層を設定し、調査・解析に加える場合がある。

     このような階層構造の発達・分化は森林を構成する植物の戦略の違いを反映している。植物が芽生え、地表面を覆うと次の段階では光を求める高さ競争が発生する。この段階では伸長生長の得意な植物が勝利を得る。しかしながら、高く生長した森林の林床では、光強度は小さいものの、植物の生育が可能な空間が発生する。そのような環境において高木種よりも小さいながら、安定的に生育が可能な種の存在が可能となる。このような一連の階層の分化によって、森林を構成する種は多様なものとなっていく。

    (2)マント群落とソデ群落
     森林とオープンランドとの境界部分には、特有な森林の構造が発達する。森林の端の部分ではツル植物が繁茂し、森林内への風の吹き込みを防いでおり、このような状態の群落をマント群落という。森林がマントをまとっているという意味である。また、まるでカーテンを掛けたようであるという意味で、カーテン群落という呼び方もある。
     マント群落は、側方からの光を植物が有効に利用する結果であり、ツル植物や低木性の樹種などで構成されていることが多く、ノイバラなどの有刺植物が多いのもの特徴の1つである。これらの植物により構成される植生は、森林中の樹木が台風などで倒れた場所(ギャップ)などでも形成される。マント群落は、結果として森林の傷付いた部分をいち早く覆って林内への日照の到達・風の吹き込みを減少させ、林内の湿度を保つ働きがある。
     ソデ群落はマント群落の更に外側に位置する草本を中心とする群落である。ソデ群落は林内から栄養分が供給されるために栄養分的には良好な立地である。

    富士スバルラインの事例
     富士山は歴史的には新しい山であり、周辺の山地とは独立した山塊であるために中腹以上の亜高山帯、高山帯では種の欠落が著しい。マント群落やソデ群落の構成種も同様である。富士スバルラインは1964年に開通したが、道路周辺の森林はそれ以降年月が経過しても枯れが止まらず、立ち枯れが目立つ状況になってしまった。この原因の1つは森林を伐採してもマントを構成する植物が存在せず、林内への風の吹き込みと日照の増大によって林床が乾燥したものであり、生育していたシラビソ・オオシラビソ・コメツガなどの針葉樹が枯損してしまいました。森林は高木性樹種だけでは永続的に成立できないことの好例である。

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