1.海上の森 −地形−
(1) DEM図
 海上の森 DEM図 能美さんと中村君の汗の結晶です。
データ処理の関係で、南端の愛知工大の地域は除いています。
光は北西側から当てています(現実にはあり得ない角度です)。
 





砂礫層の地域はコントラストが低く、ぼやけて見えます。全体的に傾斜が緩やかであることを示しています。



 左:DEM図
 右:地形図に地質図を合成したもの
  黄色は山砂利層、赤色は花崗岩

 中央部左側(西)の地域は広く山砂利層により覆われており、屋戸川や寺山川の流域です。シデコブシの群落や、湿地が点在しています。この地域は全体的になだらかな地形となっています。この他、尾根には山砂利層が花崗岩の上にのっかっています。
 右下の地域は花崗岩が広がっていますが、この地域に注目してください。櫛の歯状の谷がたくさん発達している地域があります。注意してみると花崗岩地帯のあちこちにこのような地形があります。小さな深い谷がたくさんあるのが海上の森花崗岩地域の特色の一つです。 


四ヶ谷付近の谷頭

 この写真は、谷の一番奥、谷頭です。一直線の谷があり、その谷頭がこのような地形になっていました。谷頭のすぐ向こうは尾根であり、集水域はほとんどないわけですが、この滑り台の直下では、水が湧いていました。
 もう一つおもしろいことは、谷頭の部分は、本来ならば山砂利層であるべき層位なのですが、ここでは花崗岩でした。この滑り台のすぐ右側には山砂利があり、地層の境目、断層か? と思える状態なのでしょうか?
 滑り台の部分は、意外としっかりとした物であり、歩いてもざらざらと流れる感じではありませんでした。樹木の生育状況からは、継続的に少しづつクリープしている様子でした。

【能美さんのコメント】
 見事な,表層すべりです.
こんなかんじの崩壊が海上の森の特に花崗岩分布地のあちらこちらにります。こういうタイプの崩壊は大量の降雨が引き金となって,表層付近で力学的な強度が不連続となるような地層境界(風化度の差異による境界)で起こることが多いと思います.もう少し規模の大きな崩壊であれば,被圧地下水の関与も考えられますが,これはそんな心配はなさそうです.上の方にみえる滑落崖ののっぺりとした粘土様の有りさまは,引っぱりに対する抵抗力はほとんどなさそうに見えます.このような崩壊が少しくらいの大雨で起こっていたらイヤですね.見るからに意気地の無さそうな地盤だな,というのが感想です.


(2)地質と傾斜
 海上の森を歩き始めると見上げるような急傾斜地に発達したコナラの林、そして小径を上り詰めるとなだらかな地形に発達した背丈の低いコナラ林やアカマツ林、この対照が何とも言えないのですが、そのような印象をデータに表してみました。

【花崗岩地域における傾斜分布】


【山砂利層地域における傾斜分布】

 両地質における傾斜の分布を比較すると、山砂利層地域では15〜20度の傾斜地が最も多く、全体的になだらかな地形であることがわかる。一方、花崗岩地域では25〜30度の傾斜地が最も多いものの、それより急な場所が多く、30度以上の急傾斜地が35%も占めている。
 花崗岩地帯は急傾斜地が多く、崖状になっている場所がたくさんあり、現在も土砂崩れが発生している場所が多数ある。しかしながら、昭和23年の航空写真を見ると、地形の緩やかな山砂利層の地域において、じつにたくさんの崩落地を読みとることができる。傾斜が緩やかであるということは、浸食に対して抵抗性が低いことの結果であり、簡単に崖崩れなどが発生することを示していると言えよう。

 この地域の花崗岩地帯は「谷密度」が高いことも特徴である。即ち、他地域の花崗岩地帯に比べ、小規模ではあるが非常に深い谷がたくさん発達しているわけである。谷を詰めていくと、さほど広くない集水域であるにもかかわらず、非常に深い谷が形成されている。つまり、雨が降ってもそんなに大量の水が流れるわけでもないのに、見事な谷が形成されているのである。このような谷地形の形成は、断層や破砕帯などの存在なくしては考えにくい。前掲の写真「四ヶ谷付近の谷頭」を見ていただきたい。この写真は直線上に発達した谷の源頭部である。降雨時にも流水があるとは思えない状態であるが、確実に谷頭は崩落し、発達しつつある。このような地形はこの地域の花崗岩地帯には多数発達しており、また、思わぬ場所からの湧水や滲出水の存在は、地下構造が非常に複雑であることを示していると考えられる。

 このような花崗岩地帯の不安定さ、そして山砂利層地域の崩落しやすさと植生の発達しにくさは、シデコブシなどの大きく生長することができない貴重種の生存基盤として、非常に重要な要素であると考えられる。

 海上の森地域における地質・地形的な不安定さは古くから認識されており、花崗岩地域・山砂利層地域にかかわらず、非常に多くの砂防工事が行われてきた。そのような場所を会場として、愛知万博は計画されている。


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