3.植生
(1)植生の概況
A.花崗岩地域の植生


海上の森の入り口付近。豊かな森である。


斜面下部の植生。
高木層は高く、コナラやアベマキが優占しており、場所によってはツブラジイの生育も見られる。
低木層にはヒサカキなどの常緑樹が生育しつつあるが、量的には少ない印象がある。

B.土岐砂礫層地域の植生



尾根の植生
小径には砂利が見られ、アカマツやコナラの低木〜亜高木林となっている。
開花しているのはモチツツジ。
このような尾根筋の痩悪林地の林床にはハナゴケやトゲシバリなどの地衣類、
フデゴケやホソバノオキナゴケなどのコケ植物の生育が見られることも多い。


根本から枝分かれしたソヨゴ
ソヨゴはアカマツ林に多い樹種であり、海上の森でも尾根筋から斜面中部にかけて
多数生育している。根系は浅く、地表面直下にマット状の細根を発達させ、ほとん
ど直根を発達させない。葉は厚い表皮を発達させて乾燥に強く、痩せ地にも強い。
ソヨゴは陽樹であり、他の植物と競合すると簡単に下枝が枯れ上がってしまう。
このソヨゴは根本から株状に分かれてたくさんの幹を発達させているが、このよう
な樹形のソヨゴは現在のように大きく成長するまでの間、ほとんど他の個体と競合
する関係がなかったことを示している。裸地状態に点々と生育していた個体がその
まま大きくなったものと考えられ、昔から樹木の間隔が広かったことがわかる。


谷頭の緩傾斜地の植生
樹高は低く、コナラやリョウブなどが生育。
低木層が欠如していると言って良いほど少なく、林床が透いている。
林齢はおそらく50年以上。
このような林相は下刈りにより維持されている「里山」と類似しているが、
実際には刈り取りは行われておらず、砂礫層の貧養性に起因するものと考えられる
海上の森地域における特徴の一つである。


低木層の少ない森林ではの林床
ソヨゴが地面を這っている。ソヨゴが地面を這う現象は、尾根筋の明るい痩悪林地ではよく見られる。
粘土が多く、コンパクトな土壌地と思われる。


上の写真の近くの林床
ノギランの生育とコケ植物の生育が見られる。
尾根筋でありながら、湿生のノギランが生育しており、滲出水の存在が考えられる。


アベマキ・コナラの亜高木林の林床
傾斜が急な場所では落葉が堆積されにくく、コケ植物の生育が顕著である。
コケ植物の中にツブラジイの侵入が見られる。


アカマツ−コシダ型群落
斜面上部に発達しているアカマツ林の林床にはコシダが密生しているタイプがある。
このように一面にコシダが密生してしまうと新たな樹木の侵入は困難であり、上層の
樹木が葉を茂らせてコシダを駆逐することができるまで、このような状態が続いてし
まう。アカマツ林は元々明るい林であるが、マツ枯れ病によって疎開してしまった現
況の森林では、コシダを駆逐してしまうほど林内が暗くなることは期待できない状態
である。


コシダ型林床の境界部分
コシダ型群落は帯状あるいはモザイク状に分布しており、多くの場合この写真のよう
に明瞭な境界を持って発達している。コシダは粘土成分を含むコンパクトな土壌で優
占する傾向があり、土壌の構成粒子の違いを反映しているものと考えている。


寺山川の西斜面(1998/11/28)
遷移の進行が遅い山砂利層地域においても点々とツブラジイの生育が見られる。
コナラやアベマキの紅葉に混じって、ツブラジイの丸い林冠が見える。

C.湿原の植生



谷底の湧水地に発達する湿地。


ヌマガヤ群落。コケ層にはオオミズゴケが生育している。


湿地の周辺にはシデコブシの生育が見られる。


湿地の境界付近にはオオミズゴケのマットが見られる。


鉱物質土壌の上に生育するトウカイコモウセンゴケ。



D.秋の写真

海上の森、秋の風景
11月27日に訪れた海上の森は紅葉の真っ盛りであった。
アベマキは既に葉を落とし、コナラ・タカノツメ・ウリカエデは黄金に山を染めている。


タカノツメの黄葉 タカノツメやコシアブラなどの黄葉は透明性を帯びた黄色である。
青空に広がる黄葉を下から見上げると何ともいえず
写真ではとても表現できない代物である。


オオカメノキの落ち葉
オオカメノキはブナ林の構成種であるが、海上の森では結構見られる植物である。
当地ではあまり結実しないとのことで、温暖な気候に難渋しているのかもしれない。
周辺地域にも生育が見られるとのことであるが、
このような植物が生残している海上の森は不思議な森である。




(2)地質と植生 そして 50年間の変遷
 次の2つのグラフは、昭和23年(1948年)の米軍撮影による航空写真から判読した植生図と、現在の植生図から植生の割合を算出したものです。米軍撮影の航空写真はかなりの高高度から撮影されたものであり、詳細な解析は困難でした。特に草原や低木林などはどのような植物が生育していたのか判定に困りました。
 




 山砂利層地域は花崗岩地域に比べ、アカマツ型の植生(赤)が広く発達しており、コナラ型の植生(緑)が少なく、植林地(青)も少ないことがわかります。崩壊地(白)とした凡例には、崩落地と無植生(禿地)が含まれています。
 花崗岩地域では、アカマツ型植生は約半分に減少しています。おそらく、マツガレ病などによる減少が主な原因ではないでしょうか。コナラ型植生は大変増加しています。伐採地のかなりの部分がコナラ林へと発達したものと思われます。植林地は微増にとどまっています。
 山砂利層地域では、元々多かったアカマツ型植生がさらに増加しています。一部分はマツガレなどにより減少しつつ、禿げ山にアカマツが定着したり、伐採跡がアカマツ林へと発達し、結果として面積的には拡大したものと思われます。コナラ型植生は、面積的にはほとんど変化がありません。伐採跡の一部には植林が行われたと思われ、植林地は増加しています。

 植林地を除いて考えれば、花崗岩地域ではコナラ型植生が、山砂利層地域ではアカマツ型植生が卓越しているとまとめることができます。50年間の変化に注目すると、両母岩地域ともに伐採跡や禿げ山の部分に森林が成立し、大きく発達してきたことがわかります。変化の程度では、花崗岩地域でより大きく変化しており、山砂利層地域では、樹木は生長したものの、面積的には大きな変化はないと言えるでしょう。

 現状の植生からは、花崗岩地帯の生産性は高く、度々の伐採にもかかわらず、禿げ山になった場所は少なく、速やかに森林へと回復していったものと考えられます。一方、山砂利層地帯は土壌が形成されにくく、透水性も高いために植物の生育には困難な環境であり、軽度の伐採で容易に裸地化が進行したものと思われます。おそらく、伐採の頻度は非常に低かったものと思われます。このような樹木の回復の遅さが山砂利層地域の特色であると言えるでしょう。

 これらの事から、特に山砂利層地域においては緑化が困難であることがわかります。現在生育している樹木はこれらの劣悪な土壌条件に対応が可能な種類であるとともに、現状に対応して、深くあるいは広く、根を発達させているに違いありません(おそらく、表面だけに広く根を張っている植物が多い)。このような場所に畑で育てた軟弱な苗木を植栽する事は、慎まなければなりません。工事などで発生した法面を森林へと回復させるためには、当面の見た目を重視せず、種子からの回復を待つ必要があります。おそらく、気の遠くなるほどの年月が必要になると思います。
  
海上の森メニユへ
生態研のインデックスページへ