調査地概要と調査方法
岡山県内(新見、福渡、岡山北部、和気、岡山南部)に現存する社叢林、特定植物群落より
40地点75スタンドを選出し、Braun-Blanquet法(1964)を用い植生調査を行った。
植生調査資料は植物社会学表操作プログラムVEGET(波田・豊原、1990)を用いて群落区分を行った。
調査地点の立地状態把握のため海抜、微地形、斜面方位、傾斜角度を記録した。また表層地質図より調査地の母岩を読み取った。
環境データ項目として、年間降水量、月平均気温(1月・8月)、年平均気温、また月平均気温より吉良(1971)の暖かさの指数
(以下WIと略記)を算出した。
結果と考察
表操作の結果、群落は7群落4群3小群に区分された。
T.森林構成樹種の分布との比較
DaとDb-1は海抜0〜200mに分布するが,Db-2とDb-3は海抜300mまで分布していた.また母岩の割合でも,流紋岩地域に多いDaとDb-1, 花崗岩地域に多いBb-2とBb-3に分けられた。またDa.は下位単位の中でもっとも降水量の低い場所に出現している。Db-3.は31°以上の傾斜地に分布する割合が多かった。 難波・波田(1997)によると,岡山県の低海抜および年間降水量1400mm/y未満の地域では,シイ優占林の発達は局所的なものであると報告している. 今回の調査では和気に低海抜・降水量である特異的な地域が見られた。岡山県の地形区分を見ると、和気は吉備高原山地,もしくは瀬戸内海沿岸丘陵地に区分される. 地形区分が,群落成立条件に関係する可能性が考えられる.
まとめ
本研究では岡山県南部の自然植生と群落成立要因の関係を,気候的要因(海抜,年降水量,WI,年平均気温,月平均気温(1月),月平均気温(8月),)
と地形的要因(斜面角度,微地形,母岩)から捉えた.また難波・波田(1997)による群落構成樹種の分布についての研究と比較し,群落単位での分布傾向
の検討を行った.表操作の結果,7群落,4群,3小群が認められ,さらにその群落と環境要因の解析の結果,各々に密接な関係があった.
ツブラジイ群落は海抜0〜300mに分布し,下位単位によって分布の傾向が異なった.地形的要因では,傾斜角度21°以上の斜面上部〜下部で成立が見
られることより,斜面を好む傾向が見られた.母岩は花崗岩地帯と流紋岩地帯が半々に見られ,堆積岩地帯ではあまり見られない. また岡山県沿岸部の低
海抜地で局所的に見られるシイ優占林は,吉備高原山地に区分される地帯で成立することがわかった.吉備高原山地の気候条件が,群落成立条件に影響を与えていると思われる.
モミ群落は海抜100〜500mに出現し,年降水量1500mm/yに極大を持つが,下位単位の傾向は分かれた.傾斜角度30°以上の傾斜地の割合は,モミ−ツ
ブラジイ群落で40%に対し,マメヅタ群(モミ優占林)で82%であった.モミは急斜面で優占しやすいといえる.またモミ-ツブラジイ群落は花崗岩地帯,マメヅタ
群は流紋岩地帯によく見られた.母岩と傾斜角度には,密接な関係があると思われる.
イヌシデ−ツルアジサイ群落は環境要因の幅が大きく,群落成立条件との関係は見出せなかった.しかし海抜と年平均気温の相関が見られた(相関係数R=0.7
4).本群落の成立条件に,気温と海抜が影響している可能性が示唆された.
森林構成樹種から二次林要素の強い群落と自然林の相互関係の推定を試みたが,潜在自然植生の想定に繋がる結果が得られなかった.
参考文献
吉良達夫,1971.生態学から見た自然.川出書房新社.
難波靖司,波田善夫,1997.岡山県における植物分布要因の解析
―特に森林構成樹種の分布とその気候的要因―.岡山県自然保護センター研究報告(5).
波田善夫,豊原源太郎,1990.植物社会学表操作プログラムVEGETVersion1.0.ヒコビア会.
宮脇昭ほか,1997.日本の植生.学研:48
宮脇昭ほか,1983.日本植生誌 中国.至分社:115,217,222,414,448.