卒業式にサクラを!
  −ソメイヨシノの開花実験−



 昨年の秋、大学祭にサクラを咲かせよう! というイベントがあった。4年生有志が、大学祭のイベントとして、サクラを咲かせる試みを行ったのである。紅葉が始まっていたのだが、葉を全部落とし、ビニール袋をかぶせて保温・暖房ということであったようである。休眠しつつあるソメイヨシノは、このような方法では花を咲かせることはなかった。この時期になると、寒冷刺激を受けないと開花・展葉はしないのである。
 結果的に、大学祭の時点では、休眠が強く、つぼみは堅く閉ざしたままであった。面白い試みであるとマスコミには何度も登場したが、私としては恥ずかしいイベントとして記憶に残ってしまった。

サクラを咲かせるための管理は、生物地球システム学科の生地研の有志、3年生と2年生の7名が行っています。
そのブログ(桜sakusaku)もぜひご覧ください。 生地研HP



2005年10月27日
紅葉し始めた葉をすべて除去し、ビニール袋がかぶせられた


2005年11月24日
大学祭に向けて飾りつけがされ、それなりの面白さはあったのだが、花芽は動かず!


 その後、リベンジしませんか?との誘いがあり、大学のバックアップの元、卒業式にサクラの花を! というイベントが動き出すことになった。十分に寒冷刺激を受けた後に加温すれば、開花は促進されるはずである。通常であれば、3月末頃に開花し、4月の入学式頃に満開となる。20日程度、開花を前倒しする必要がある。

 さて、ソメイヨシノの開花に関しては、気象庁などを中心として多くのデータ蓄積がある。基本的には、積算温度が一定の値になると開花するとされている。積算温度に関しては、単純に積算を行うタイプの算出方法と、気温が上昇するにつれ、加速度的に有効な温度が増加する方式の算出方法もある。また、温度の数値に関しても、最高温度を利用する場合や日平均気温を用いる場合もある。様々な算出方法があるのだが、どれが最も適しているのかは別として、要は加温すればいいということである。
 加温する場所に関しては、地上部のみでは不足である。地上部の温度が上昇しても、地温が上昇しなければ、根は水を供給することができない。本来ならば、地上部よりも地下部の温度を上げたいわけであるが、今回はそのような方法をとることはできなかった。温室内の空気を循環させ、極力土壌の温度も上がるように配慮したことが限界であった。

2006年1月24日 温室の建設が始まる。


2006年1月26日 温室完成


リベンジなるか? マスコミの取材も多い(2006/02/02)

その後の花芽の動き

左:3月5日(動き始め)  右:3月8日(けっこう時間がかかる)


左:3月11日(花弁がのぞき始めた)  右:3月12日(開き始めた)


3月13日の花


3月13日(開花の報により、マスコミも取り上げる)


3月15日(上部の枝は、かなり花が開いてきました)


3月15日
しかし、枝によってはほとんど動いていないものもあります。
枝による違いが大きいようです。
ビニール袋がかかっていた枝が、遅いようで
部分的な高温が、休眠打破を遅らしているようです。



卒業式の前日(3月19日)


昼過ぎから温室の撤去作業が始まりました。
あいにくの春一番。強風でサクラの花びらが飛んでいきます。
せっかくのサクラ、花びらの1枚でも惜しい気持ちでした。



上部の枝はどうにか咲きそろった状態です。



卒業式(3月20日)



足場も午前中に撤去され、サクラが姿を現しました。
部分的には満開。まだつぼみの枝もあるまだら咲き。
しかし、どうにか格好はつきました。




関係者の皆さんも記念撮影。卒業生の皆さんも記念撮影です。



まだ咲いています(3月28日)



上のほうの枝は散り始め、下の枝は満開になりました。
しかし、まだつぼみの枝もあるのです・・・・
途中で予想したとおり、2週間以上も次々と咲く、
まだら咲きになってしまいました。
卒業式にも、入学式にも同じ木が花を咲かせることになってしまいました。



加温しなかったサクラは、左の画像の状態で、加温の効果は明瞭でした。
ちなみに、岡山市の開花は3月29日でした。
温室の中のオオムラサキは開花直前になりました。
例年の開花は4月の終わり頃ですから、
こちらも20日ほど早い開花になりそうです。


 サクラの花は、4月4日の段階では葉桜になりつつありますが、まだ花は咲き残っています。開花し始めたのが3月12日ですから、20日以上も1本の木が開花し続けたことになります。なぜこのようになったのか? どうやら、ビニール袋をつけたことが原因のようです。次第に状況がわかってきたのですが、最初は応用数学科の学生たちが、「大学祭にサクラを咲かそう!」と、サクラの枝にビニール袋をかけました。袋はかけやすい枝にかぶせられました。脚立の上から手がたう低い枝が中心でした。この、ビニール袋をかけられた枝の花が咲くのが遅れたわけです。このために、普通の咲き方とはことなる、上の枝からの開花になりました。

 ビニール袋がかけられた枝は、休眠が打破されていなかったようです。サクラは、夏につぼみを作りますが、つぼみは十分に低温を経験しないと開花するために動き始めません。したがって、低温を経験していない大学祭の時点では、加温しても開花しなかったわけです。十分に低温を経験していない場合には、植物が冬が過ぎ去ったことを認知していないので、加温しても簡単には開花せず、十二分に加温して初めて開花することが知られています。植物としては、秋の小春日和か、本格的な春の到来なのか、まよってしまうのでしょう。

 ビニール袋をかぶせることによって、どのような効果があったのでしょうか。ビニール袋をかけるだけでは、夜はやはり外気温と同様な温度になるでしょう。1月、2月の低温のときには、十分に低温を経験しているはずです。しかし、昼間に日光があたると、ビニール袋の中は、結構気温が上がるのではないかと思います。天気の良い昼間は結構温度が上がり、夜は冷え込むという、大変な環境の中ですごしてきたといえましょう。このような枝の花芽はちゃんとした季節の判断ができず、休眠が十分に打破されなかったために開花がおくれたのだと考えることができます。ビニール袋をかけておくと、ヒラドツツジの咲く頃にサクラを咲かせることができるかもしれませんね。


戻る Topに戻る