小学校の年輪に関する問題 正解は? はじめまして。東京在住のHと申します。 小学生の子供の理科の問題で次のようなものがあり、インターネットで検索したところ、貴ホームページにおいて、年輪の研究を発見したため、唐突ではありますが、ご教授頂ければと思い、メールをお送りしております。 以下の問題についてご意見をお聞かせ頂けましたら幸いです。 「年輪の変化の原因は、その樹木が生えていた場所の周囲の変化や出来事であるらしいことが想像できました。ある年の年輪の幅は、前年の年輪の幅に比べて、急激に狭くなっています。どのようなことが原因となったのでしょうか。次の中から、2つ選んで、記号で答えなさい。
シ.その年の冬は、記録的な寒さだった。 ス.その年の秋に、大型で非常に強い台風がやってきた。 セ.その前の年の秋に、大型で非常に強い台風がやってきた。 ソ.その年の6月ごろの雨が続く期間が、とても長かった。 タ.その年の6月ごろの雨が続く期間の雨の量が、とても多かった。 チ.その年の夏に、その木の南側に生えていた大木が切り倒された。 ツ.その年の夏に、その木の北側に生えていた大木が切り倒された。 テ.その前の年の秋に、その木の南側に生えていた大木が切り倒された。 ト.その前の年の秋に、その木の北側にはえていた大木が切り倒された。」 答えは、ひとつはセ かなと思いますが、もうひとつは何でしょうか? ソでしょうか? 干ばつの年は、年輪が狭くなるというようなことも目にしましたが、サの「記録的な暑さ」=干ばつ なのでしょうか? ・・・・ |
H様 大変難しい問題を提示いただきました。 さて、教育現場で出される「問題」が、学術的に正しいか? という事に関しては、もちろん学術的にも、厳密な意味で正しいことが望ましくはありますが、厳密な意味では問題のある「問題」も多数あるのはご承知のことと思います。 その一つの原因は、事象の単純化にともなう様々な条件の欠落であるかと思います。 年輪幅に関しては、 ・葉の展開にともない、水の供給不足になるので、幹が太くなる。 というのが、1つの原則です。植物の幹(茎)は、枝や葉を支える役割と水を通導する役割がありますが、計算上、支える力には十二分であることが多く、主に水分の通導の観点から幹の太さを考えればよいことがわかっています。 幹の中には導管や仮導管があり、水を送っていますが、これには寿命があり、小生の観察では10年ほどで詰まってしまうようです。これは、植物の種類によって年月は違う可能性があります。したがって、毎年新しく作る必要があります。葉の面積が昨年に比べて広くなるならば、より茎の面積を増やす必要が生じます。 年輪幅に関するポイントとして、葉が増えると、その結果年輪幅が増加するという事になるわけで、需要が発生するとそれに対応して年輪が形成されると言うことがあります。 このように考えてみると、春に葉を展開させるコナラやクヌギは、春に葉が展開すると、それに対応した幅の年輪を春から初夏にかけて形成することになります。 そこで、「問題」の木の種類が問題となります。 ・コナラやクヌギなどの落葉広葉樹である場合 これらの樹木は、春から初夏にかけての環境条件が良ければ、それに対応してすぐに葉の量を増やします。その結果、年輪はその年に年輪幅の増大として現れます。 その木にとっての環境改善が何であるかは、微妙であるわけですが、南側の樹木が伐採された場合、特に風当たりが強くなるなどの問題がなければ、光環境は良好になったと解釈できます。 その効果は、北側の樹木が伐採された場合よりも大きいでしょうが、北側の樹木が伐採された場合であっても、年輪幅は増加します。というのは、光環境の改善はわずかであっても、土中の水分や栄養分の獲得競争に関しては、競争相手がいなくなったわけですから、環境は改善されているわけです。 成長期(春から初夏)の降雨量は、大切です。降雨期間が多い場合には、植物にとっては、デメリットになる場合が多いようです。曇りや雨の日は、日照量が不十分である点も問題ですが、雨は植物にとってストレスになり、葉から栄養分(特にカリウム)が洗い流されてしまう点も問題です。 ・アラカシやシラカシの場合 アラカシは4月の終わり頃から、シラカシは5月に葉を展開します。したがって、幹が太るのは、それ以降になります。年輪幅の拡大は、少し遅めに始まり、夏にずれ込むものと思われます。これに関しては、不明の点もありますが・・・・ 元々、年輪が不明瞭なのは、幹が生長するのに、大きな波がないことを示しています。 ・アカマツやクロマツの場合 これは、ちょっと複雑です。アカマツの芽は夏から初秋にかけて形成されますが、その際に来年出す葉の数が決まります。したがって、夏の気候が次年度の葉の数を決めることになるわけです。 マツの芽は5月頃から7月頃にかけて伸び、葉が形成されます。その年の気候が良好であっても、葉の数は前年に設計しているので変更できず、葉の数は増やすことが出来ません。全くその年の気候に無反応であるかといえば、そうではなく、葉の長さは葉を形成する期間の降水量によって、長くなったり、短かったりします。 したがって、その年の気候条件をわずかに反映するものの、ほとんどは前年の夏の気候によって、その年の年輪幅が決定されることになります。 また、周辺樹木が伐採された場合の年輪変化も微妙です。 光条件が改善されたわけですが、葉を簡単に増やすことが出来ないために、その年の年輪には反映されず、次年度以降に年輪幅が変化します。 複雑なのは、変化幅が必ず広くなるとはいえない場合が結構あるからです。 環境が改善され、葉量が増やせる状況になると、年輪幅が減少してしまうことがあります。貯蓄している資産を葉量の増大に使うために、年輪幅は返って小さくなってしまう現象が多々観察されます。資源を葉量の増大に使い、実際に葉量が増えると、やがて年輪幅が増大する現象です。 したがって、アカマツなどでは、環境の改善が数年遅れることがよく観察されます。 秋の台風に関しては、常緑樹か落葉樹かによって被害の度合いが異なります。秋の落葉樹は、緑の葉であってもすでに疲れてしまっており、光合成の能力が大変低いのが通例です。したがって、秋に台風によって葉が痛むのは、次年度にはあまり影響しません。 しかしながら、常緑樹では大きな被害になる可能性があります。3年使う予定の葉が半年でだめになってしまえば、大変な資源の無駄使いになってしまうわけです。 葉形成期間の雨量が大変多かったことは、場所によって違うでしょう。乾燥地では良いことだし、湿った平野部では、悪い事なのかも知れません。 「暑さ」は、降水量に変化がないとすれば、乾燥と同じです。 水分量が同じで、気温が上昇すると空気中湿度は低下し、乾燥しやすくなります。植物の多くは、高い気温には耐えられますが、水分の欠乏状態で、気温が高くなると耐えられません。 暑いときには水をやるのも1つの手ですが、日光を遮ってやると生き延びることがたやすくなります。 ということで、深く知れば知るほど、「問題」には問題があり、樹種や環境などが明示されていなければ、解答できない「問題」です。 いかがでしょうか? アカマツならば、正解ナシ。 落葉広葉樹なら・・・ > 「年輪の変化の原因は、その樹木が生えていた場所の周囲の変化や出来事である > らしいことが想像できました。ある年の年輪の幅は、前年の年輪の幅に比べて、 > 急激に狭くなっています。どのようなことが原因となったのでしょうか。 > 次の中から、2つ選んで、記号で答えなさい。 > > サ.その年の夏は、記録的な暑さだった。 > シ.その年の冬は、記録的な寒さだった。 > ス.その年の秋に、大型で非常に強い台風がやってきた。 > セ.その前の年の秋に、大型で非常に強い台風がやってきた。 > ソ.その年の6月ごろの雨が続く期間が、とても長かった。 > タ.その年の6月ごろの雨が続く期間の雨の量が、とても多かった。 > チ.その年の夏に、その木の南側に生えていた大木が切り倒された。 > ツ.その年の夏に、その木の北側に生えていた大木が切り倒された。 > テ.その前の年の秋に、その木の南側に生えていた大木が切り倒された。 > ト.その前の年の秋に、その木の北側にはえていた大木が切り倒された。」 > > > 答えは、ひとつはセ かなと思いますが、もうひとつは何でしょうか? ソでしょうか? 強いて答えを考えるならば、不適切なものを除く以外にありませんね。 隣接の大木が切り倒されたのは、常識的に+要因であると考えて、×。 その年の秋・冬も年輪には反映されないので× 残るはサセソタですが、問題作成者の望む解答としては、セ・ソでしょうが・・・学術的には正しくないですね。 |