桜(ソメイヨシノ)と毛虫(サクラケンモン)


 ソメイヨシノにはよく毛虫が大発生する。公園などでもよく問題となり、薬剤散布が行われたりする。生物地球システム学科が入居している21号館の前に、2本のソメイヨシノが植えられている。1999年の秋、その内の1本に毛虫が大繁殖した。ケンモンガというタイプのものだそうで、その中でもサクラやウメなどを食草とするサクラケンモンという蛾の幼虫であるとのこと。次第に大きく生長して10月のはじめには、葉を食い尽くしてしまった。写真を撮ろうと思っている内に、このサクラケンモンは食い尽くした木をおりてどこかへいってしまった。隣のソメイヨシノがその後食害されなかったところを見れば、隣の木に移ることができた毛虫はほとんど居ないのであろう。すでに成虫になれるまでの段階に生長していたのか、全滅してしまったのか・・・・・(残念ながら、毛虫の写真がない)。
 葉を食い尽くされてしまったソメイヨシノはその後どうなったであろうか。このページは、その追跡記録である。
1999年の10月
1999年10月17日撮影
食い尽くされたソメイヨシノ食べられなかったソメイヨシノ
葉を食い尽くされたソメイヨシノ(左) 食害されなかったソメイヨシノ(右)

狂い咲き狂い咲き
 葉を食い尽くされてしまったソメイヨシノは、10月の後半に狂い咲きした。まだ気温が高く、樹木の活性がある期間に葉がすべてなくなってしまったので、少し新しい葉を再生した。葉を再生するためには、手続き上、花も咲かせざるを得ない。ソメイヨシノは花を咲かせた後に、葉を展開するからである。このような毛虫による食害がひどい場合には、狂い咲きはよく起こる。

 講義では、来年の春は全く影響がなく、美しい花を咲かせるであろうと予言した。2000年の4月は、予想に違わず、美しく開花し、葉を展開した。
前年に食害にあった被害木前年に被害に遭わなかった健全木
2000年4月11日撮影

前年に食害にあった被害木前年に被害に遭わなかった健全木
 2000年7月11日撮影 

 上の画像は2000年の夏のものであり、全く健全に葉を展開し、生長しているように見える。前年の秋に葉をすべて食べられてしまった個体と、そうでない個体には顕著な違いがなく、秋におけるサクラケンモンの食害は重大な影響を与えるまでに至る要素ではなかったことになる。

 ソメイヨシノの葉寿命は3〜4ヶ月であるとされている。春に新葉を展開し、盛夏までの期間に十分な光合成を行って同化産物を蓄積し、初秋には光合成能力が低下して呼吸量を差し引くとあまり利潤が残らない状況になっていることになる。そういえば、サクラの葉は、盛夏にはすでに紅葉しているものもあり、落葉してしまうものもある。少なくとも春一番に出た葉については、緑に見えてはいても光合成の能力が低下しているのであろう。

 このように見てくると、葉が老化して光合成機能が低下した時期にサクラケンモンは葉を食べていることになり、ソメイヨシノには決定的なダメージを与えていないと考えることができる。サクラケンモンはサクラを絶滅させては生存できないわけであり、それなりに共存共栄できるシステムとなっている。サクラケンモンは仁義をわきまえて、サクラの葉を食べている。


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