冬の蒜山三座

 蒜山(ひるぜん)は古い火山であり、東側から下蒜山1100.3m)・中蒜山1123.3m)・上蒜山(1199.7m)の3つの山が連なっている。南側は海抜500m前後の平原となっており、蒜山高原と呼ばれている。蒜山高原は蒜山三座より西側に位置する大山の噴火によって堰き止められた古蒜山原湖が干上がって形成されたものである。蒜山高原では古くから人間活動が盛んであり、旧石器が発見されている。近世では、利水の良い場所では水田として、高原面は放牧地や草刈り場として利用されてきた。このために蒜山高原に接する山地は盛んに利用されており、高原への火入れが山頂まで燃え上がることもあったという。
冬の蒜山三座:左から上蒜山、中蒜山、下蒜山
2003年1月12日 【上蒜山の西からの眺め】

 上蒜山を眺めると、南斜面と北斜面で大きく植生が異なることに気づく。積雪時にはその違いが明瞭であり、山頂から北側に連なる地域ではブナ林が残っていることがわかる(左側の尾根)。
 東西に伸びている稜線に連なる南向き斜面は雪が積もって白く輝いており、植生が低いことがわかる。この地域はササ草原や低木群落となっており、春から初夏にかけてはマツムシソウやアカモノなど、蒜山を特徴づける植物の生育地となっている。
 山裾に至るにつれ、樹高は高くなり、一部にヒノキやカラマツが植林されているが、概して良好な生育を示していない。
2003年1月12日 【上蒜山の南からの眺め】

 東西に伸びる尾根筋は、雪が白く輝き、植生高が低いササ草原や低木林であることがわかる。東西方向の尾根から南に伸びる尾根は樹木に覆われており、樹木の成長が比較的良好であることがわかる。
 これらの樹木はコナラ・クリなどの落葉広葉樹であり、樹齢はほぼ50年程度の比較的若い林である。尾根筋の傾斜変曲点付近の凸地には、アカマツ(黒い点々)の生育が確認できる。
1981年2月8日 【上蒜山尾根の拡大】

 蒜山の東西に伸びる尾根には巨大な雪庇(せっぴ)が出来る。雪庇は北西の季節風によって雪が尾根の南側に向かって吹き溜まり、形成される。したがって、積雪量も南斜面の方が深いことになる。
 雪庇は春の到来とともに崩落し、斜面上部に厚く積もった雪も雪崩となって崩壊する。その際には生育していた樹木の一部も大きな被害を受けることになる。
 画像の雪庇はすでに何度か崩落し、その後の積雪で再成長しているが、今にも崩れ落ちそうに垂れ下がっている。
2002年2月9日 【中蒜山の斜面に発生した表層雪崩】

 一度にたくさんの雪が積もると表層雪崩が発生する。樹木の生育がない場所では簡単に表層雪崩が発生する。表層雪崩も植生に大きな被害を与えるが、実際には厚く堆積した雪全体が崩落する底雪崩の方が被害は大きい。雪崩落ちた雪塊は谷に流れ落ちるので、谷の底では高木の生育が見られない。
1981年2月8日 【上蒜山の底雪崩】

 底雪崩は冬型の気圧配置がゆるみ、日本海を低気圧が通過して南から暖かい風が吹き込む冬の終わりから早春にかけて発生する。
 まず、斜面の上部に大きな亀裂が入り、その後一挙に崩落する。大きな立木が被害に遭うこともあり、植生にはもっとも大きな影響を与える。崩壊断面をかいま見ることが出来るが、尾根部では積雪量は少なく、斜面部の吹き溜まりでは、数mの以上の厚さであると思われる。
 画像では、底雪崩が発生して地面が露出している部分が南東向き斜面であり、谷を挟んで相対している西向き斜面では樹木が生育しており、雪崩は発生していない。

 蒜山の東西に伸びた尾根の南斜面にはササ草原や低木群落が発達している。これらの植生の多くは、採草地の維持にともなう野火など、人為的なものであると考えられる。しかし、一旦樹林がなくなると雪崩が発生し安すい南向き斜面では、森林植生の回復は遅々として進まなくなってしまう。
 蒜山連山の稜線にはカタクリ・イブキトラノオ・マイヅルソウ・アカモノなどの亜高山帯から山地帯にかけて生育する草本植物や矮性低木が見られることから、自然状態にあっても急傾斜地などでは草本群落が発達する立地は存在していたものと思われる。しかしながら、ササ草原の拡大には人為が大きく、年々樹木の成長にしたがって、白銀に光る尾根は狭く、小さくなっていっているように思う。地球温暖化で積雪量が減れば、一挙に森林化してしまう可能性も、と考えている。

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