岡山県では,古くからの森林の継続利用によりほぼ全域が代償植生と化し,天然林,或いは自然林に該当するような植生はほとんど残されていない。環境庁自然保護局(1994)によれば,岡山県における自然度10・9の自然植生出現頻度は,わずか0.6%に過ぎず,47都道府県の中で最も低い値となっている。
燃料革命以後,森林が利用されなくなったことを契機に,森林植生は徐々に回復の方向へ向かうことにはなったものの,過去の山林利用のはげしさから,依然として潜在自然植生樹種は欠落していることが多く,地域の現況植生のみからは,その本来あるべき植生を想定しにくい状況となっている。こういった傾向は本県の南部で特に顕著で,特定植物群落に指定されているような樹林や,地域の社叢林等を手がかりに,おおよその地域本来の植生を想定することしか出来ないのが現状である。このような現存植生の貧化は,本県の沿岸南部が温暖・少雨を特徴とする瀬戸内海気候であることに起因していると考えられる。
こういった現状は,失われた自然の復元,或いは新たな緑域創生といった方面に関しても,単調な環境緑化しか行われていない等といった影響を与えており,地域ごとに適した樹種の選定を容易にすることは急務であると考えた。
本論文では,岡山県における植物の分布と,気温・降水量等の環境要因との関係解析を行うことにより,種の分布特性を明らかにした。この結果から,種の主要な分布域を推定するとともに,本県における潜在自然植生について考察を行った。地域における環境緑化に際しての,適性樹種の選択に関する留意点等についても言及した。