上関原発アセスメントを考える

波田善夫(岡山理科大学総合情報学部)

1.アセスメント提出前後の環境
 昨年の6月12日に環境アセスメント法が施行された。生態系調査や意見提出が地域住民に限定されなくなったことなど、アセスメントは新しい時代に入った。法が国会を通過し、施行されるまでには3年の周知徹底期間があった。その間、進行しつつあった開発事業は、早急に調書をまとめて旧基準のままで駆け込むか、アセス法に対応するかの選択を迫られることになった。
 愛知万博では、アセス法の精神を先取りし、法を前倒し実施した。その意味では、「環境万博」の名に恥じぬ態度であった。岡山県の柳井原堰事業では、法の施行前年に調書ができあがっていたにもかかわらず、法に乗っ取ったアセスメントを実施することとなった。駆け込みアセスを避けたわけである。
 上関原発は法の施行2ヶ月前に旧基準によるアセスメント調書を県に提出した。駆け込んだわけである。

2.環境アセスメントは適切に行われているか?
 駆け込むこと事態は、法的には何ら問題はない。しかしながら、周知徹底期間の3年を考慮するならば、多少なりとも法の精神を汲んだ調書であって欲しかった。
 提出された調書は、残念ながら旧基準においても十分な調査を実施したものとは言い難いものであった。瀬戸内海においてレッドデータに記載されている種に関し、調査・評価が十分ではない。スナメリクジラは水産庁が「希少種」に指定している種であるが、棲息確認すらない。ナメクジウオはさらに絶滅可能性が高い「危急種」とされているが、棲息確認はなされているが、注目種として評価の対象とされていない。
 海のアセスメントとしては、貝類は欠かせぬものである。福田氏の調査によれば、貝類ファウナの70%程度が欠落しており、多くの貴重種の棲息が確認されていない。さらに多量に棲息している貝の同定が誤っているなどの、低レベルにとどまっている。調査のレベルがあまりにも低いと言えよう。

3.追加調査は適切か?
 実質的にアセスメントのやり直しに等しい、追加調査が求められた。しかしながら、その方法は「従来と同一」とされており単に種の確認にとどまる模様である。法の施行期日をまたいでの追加調査は、旧基準でよいのであろうか? まるで古い食品基準を継続しているようなものであり、とても納得できるものではない。

4.生態学会の対応
 日本生態学会は、この上関原発のアセスメントに対し、「要望書」を総会で決議した。この件に関してはアフターケア委員会を設置し、今後の事態を継続的に見守ることとなった。中国四国地区会においても、「周防灘生態調査員」を任命するなど、積極的な対応をはかっている。

その後の議論を含めて
 提出された調書は残念ながらレベルの低いものであった。植物に関しても多数の見落としがあることがわかっており、調査者のレベルの低さ、それを監督することできないコンサルタント、中国電力の意識レベルの低さが気に掛かる。特に現場の調査者のレベルが低いことは、アセスメントという仕事に従事しておきながら、アセスメントの信頼性を大きく低落させてしまうのもであり、自らの職業を消滅させる事にもなりかねない。まことに残念である。
 しかしながら、提出された調書がレベルの高いものであったならば、すんなりと通過していた可能性もあり、レベルの低い駆け込みアセスがあったからこそ、原発問題が土俵の上に上がったのである。穴だらけのアセス調書に感謝しなければならない。


前のページへ次のページへ
もどる