細見谷林道整備に関する意見
委員会の開催は現地視察も含め、11回に達した。このような、異例とも言える長い年月と多数の委員会の開催を余儀なくされたことの原因は、細見谷の自然の優位性に比べ、調査の内容・レベルに大きな乖離があったからである。委員会は、一応の結論を出し、結審に至ったが、林道整備に対する各委員の対応と意見は様々であり、全員一致での結審ではなく、残された課題も多い。今後、これらの課題を解決する必要がある。
1.細見谷を中心とする西中国山地と林道整備
開発に関するアセスメント調査では、計画地とそれに隣接する狭小な地域を対象とすることが普通であり、その地域を含む広域における調査・評価が行われることは異例であるといっても良い。その意味では、本調査が狭い範囲における調査と評価しか行われていないことに関し、特に劣っているわけではない。しかしながら、細見谷を中心とする西中国山地の自然は、包括的・総合的に保護・保全されるべきものであると評価されており、経済性・利便性のみからの観点で開発計画が立案されるべきものではなかった。
2.調査の基本方針と精度
地域の自然を把握し、評価するための調査項目と精度は、その立地に発達している自然特性から選定され、実施される必要がある。本件はアセス法に則ったものではないが、その精神は遵守されるべきであり、立地の自然に合わせたメリハリのあるものでなければならない。
細見谷および周辺地域ではツキノワグマの生息密度が高いことは良く知られた事実であり、包括的調査が必要であった。渓谷であるので、水生昆虫などの水生動物に関する調査は重視されるべきであった。これらの項目に関する調査は、通り一遍なものであり、評価が可能な段階ではない。その他の調査に関しても調査回数が少なく、路線の変更などもあって、適切な時期に十分な調査を実施できていない。
具体的には、ツキノワグマに関しては多くの観察例や問題が指摘されているが、これに対する調査は文献調査のみであり、評価できる段階にない。水生昆虫に関しては調査時期が不適切であるとともに、十分な調査が実施されていない。京都大学の竹門氏を中心とするグループはこの地域の調査を実施し、カワゲラ目として63種を確認し、そのうち、少なくとも15種が未記載ないし所属不明の種であり、特異な地域であることを指摘している。しかしながら、当該調査では、わずか24種の生育を確認する程度の調査に留まっている。植物相調査は植物に関する調査の基礎となるものであるが、調査回数が少なく、適期に実施されていないこともあって、不十分あるいは不正確である。当該調査では約600種の植物の生育を確認している。一方、自然保護団体が実施した調査においても約600種が確認されているが、その一致率は60%を超える程度に留まっている。調査時期を失しているために、ラン科を中心とする貴重種の欠落が著しく、このような不十分な調査に立脚した保護・保全対策には、大きな問題が内在していると評価せざるを得ない。
このような調査の不十分さは、何をどの程度解明すべきであるかを事前に検討せず、一般的な調査項目を緑資源の緩やかな基準によって調査したためであり、細見谷の自然を正しく把握し、評価できていない。
委員会の結論としては、着工を是認するものとなった。当面、自然性の高い地域における工事は実施しないこととし、充実した調査を実施する必要がある。
3.モニタリングおよびフォローアップ調査
現在の方針は、前述のような調査の不備をフォローアップ調査で補完するとしている。モニタリングは、工事開始前の状態とその後の変化を比較することによって行われる。したがって、自然状態における調査のレベルが高いことが必要であるが、現時点における調査資料では、モニタリングの開始時点のデータとして不十分なものである。早急にモニタリングの出発点となるデータを取得する必要がある。
4.事業の有効性・コストパフォーマンスに関する評価
本林道の整備は、細見谷の高い自然性・重要性に配慮した結果、道路の幅員は狭小なものとなった。その結果、通過車両数の推定値は190台/日に低減した。この推定値は行楽シーズンである秋季に計測された数値を元に算出されたものである。道路の設計条件が大幅に変更されたため、計算方法の妥当性も含め、事業の有効性や公益性、コストパフォーマンスに関して改めて評価する必要がある。通行車両の推計方法に関しては、通常、使用されていない時間距離による配分方式が採用された。委員会においても、この計算方法による推計値には疑問が投げかけられており、「予測される最大の数値である」と位置づけられている。既存道路よりも15〜20分程度、通行には余分な時間がかかり、通行量が増大すれば、離合による交通渋滞も発生すると予想される。適切な通行量の推計が行われる必要があり、除雪されないので、通行可能期間は約半年しかない点も考慮すべきであろう。
5.完成後の管理
本林道の整備に関しては、多くの制約・条件が設けられた。林道整備後の管理は、地元の自治体である廿日市市にゆだねられることになる。林道の整備は、完成以降、地元自治体によって高いレベルの維持・管理が実施されることが前提であるので、現時点における廿日市市の管理項目の受諾意思表明が必要である。