カワゲラ目の生息状況からみた細見谷の特徴とその貴重性について

 2004年9月から2005年10月にかけて細見谷流域を踏査し、本流ならびに支流の底生動物の採集調査ならびに水生昆虫の成虫採集調査を行った。全採集物を同定し水生昆虫相のリストを完成するためには、目や科別に専門家の鑑定を受ける必要があるため、少なくとも今後数ヶ月程度の時間が必要であるが、ここでは現時点で判明した事実から注目すべき点について簡単に報告することにする。

 カワゲラ目については、63種が確認され、このうち少なくとも15種が未記載ないし現段階で所属不明の種であった。すなわち,確認された種の約24%が、今後新種や新記録として記載される可能性がある種であることが分かった。また,これら15種のうちの5種は日本固有属に属するものであった。
 今回、確認された総種数(63種)は,本州の山地域の数値としては,必ずしも特記するべき多様性ではないものの、未記載種ないし所属不明種の割合が約24%と高いことは特筆に値する.すなわち,日本産カワゲラ目の既知種の総数が約200種であることを考えれば、15種もの未記載種ないし所属不明種が狭い範囲から確認されたことは驚異的な事実といえる.その原因として,1)細見谷が狭い範囲に滝のような源流環境から里山の谷戸のような湿地環境まで多様な生息場所が存在している可能性や,2)細見谷地域の水生昆虫群集が生物地理学的に特異な種組成をもっている可能性などが考えられる.また,15種のうちの5種が大陸から近縁種が確認されていない日本固有属に属するという事実は、この地域が生物地理学的に重要な場所であることを示している。

 カワゲラ目のうち、カワゲラ科の一部(ナガカワゲラ属 Kiotina,コナガカワゲラ属 Gibosia)、クロカワゲラ科、ホソカワゲラ科の各種では、幼虫(とくに若齢)が河床間隙水域(hyporheic zone)に潜って生息すると考えられている.しかも,本調査で未記載種ないし所属不明種として確認された15種のうち、少なくとも4種が幼虫時代を河床下間隙などで成長することが考えられている。さらに,このうち1種は日本固有属に属する。以上の事実から、細見谷の水生昆虫相やその貴重性の源泉として,伏流水の健康状態がきわめて重要な環境要素であることが予測される。

 道路の舗装化によって下流部への湧水量が減少する等の現象は経験的にもよく知られているところである.今回の調査結果から,細見谷の林道舗装に際しては、伏流環境とそこを利用する生物をも含めた、より些細な調査があらかじめ行われるべきであると判断する.さらに,それらの知見を集約ならびに整理した上で計画の是非そのものを改めて問い直す必要がある。

(2005年11月26日 清水高男氏の同定結果をもとに森生枝・竹門康弘が執筆)


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