山渓ハンディ図鑑14
樹木の葉
実物スキャンで見分ける1100種
林 将之 著
樹木鑑定サイト「このきなんのき」でも有名な林将之氏がすばらしい図鑑を出版した。
掲載されている種は木本や木本性のツル植物であり
1100種類、樹木と呼べるほとんどの植物が収録されているのではないかと思う。

画像は実物をスキャナーによって取り込んだカラー画像である。
これがすばらしい!

大昔になるが、白黒のスキャナーでつくった図鑑を見たことがある。
かなりの高精度でのスキャニングで
これならば苦労して図を書く必要はないと思ったものであった。
白黒でコピーした壱万円札を彩色するなどの
犯罪があった時代である。

自然観察会などでは
あらかじめ植物を採集してきてスキャナーし
図鑑代わりに使用することを推奨したことがある。
これが結構難しく、上手に構成するにはそれなりのノウハウが必要であった。

今回の図鑑を見て、なるほど! と感心するし
簡単そうに見えるものの実は高度な技術が隠れ見える。
長年の経験と成果の結晶である。

本を開いて眺めると実に楽しい。
画像の質感がすばらしく、現物がページの間に挟まっているかのようである。
これほどの新鮮さは現場でのスキャニングではなかろうと推察する。

1枚の画像でその植物の特徴を提示することは簡単ではない。
図鑑では掲載できる画像の枚数と面積が限られているので
使用する画像の適・不適が図鑑の信頼性を大きく係っている。
本書では、掲載されている画像の質が非常に高く
一目で種の特徴を把握することが可能である。
言い換えれば、この図を眺めていれば
野外でそっくりの植物に出会うことになる。

本書の特徴のは1ページにほぼ1種を掲載していることである。
可能な限り、原寸大の葉を掲載するよう紙面がアレンジされている。
もちろん、拡大図や縮小した画像もあって、縮尺率とともに注釈がある。
画像でわかる内容は極力省略し
種の同定ポイントや類似種との区別点が実に的確に記述されている。
最小限の表現で最大の特徴を掲載しているといえよう。
林氏ならではの技である。

本書はハンディ図鑑シリーズであるので持ち歩きに適したサイズ。
しかし、760ページもあって、厚さ3cm、重さ845gもある。
山にもって行くには少し勇気がいるかもしれない。
それでもこの図鑑の描画力のすばらしさは持ち歩きを誘惑する。

小生は、学生時代、ヒマさえあれば図鑑を眺めていた。
図鑑を常に眺めていると、野外で「アレに違いない!」という植物に出会う。
植物を採取してきて図鑑で調べるより、そのほうが興奮度が高かった。

本書を手にしてみて座右に置き、気分転換にページをめくって見たくなっている。
山の樹木が隣に引っ越してきたみたいです。
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