水孔 water pore
早朝の野山を歩くとき、草がしっとりと濡れてズボンが濡れてしまうことがある。夜露が葉の表面にたまっている為である場合も多いが、注意してみると植物の葉の縁に水滴がたまっており、水孔から余分な水分が押し出されているからである事も多い。植物の排水組織:水孔について考えてみよう。
水孔は気孔が二酸化炭素や酸素などの気体の出入り口であるのに対し、水が排出される。気孔のように状況に合わせて開閉できる構造にはなっておらず、単なる穴である。葉の先端や葉脈が終わる葉の縁の部分、鋸歯の先端付近などに見られる。すべての植物に備わっているわけではないらしく、イネ科植物やサトイモ・フキ・アジサイ・ユキノシタ・ヤブガラシ・ソラマメなどでは典型的なものが観察されている。
水孔から水が排出される現象を出水というが、常に出水が観察されるわけではない。我々が眼にすることが出きるのは早朝であることが多いが、梅雨時などの空中湿度が高い場合には昼間でも観察することができる。根の活性が高く、水を吸収する能力が高いにもかかわらず、気孔が開いていない場合に植物体内の水分が過剰となり、余った水分が押し出されてくるのであろう。1つの植物体の中では、新しいフレッシュな葉でよく見られ、古い葉では出水が見られないことが多い。植物体内では、活性の高い葉に重点的に水分が供給されていることを示している。
植物体内の水分は、昼間は活発な光合成を行うために気孔が開いており、水分不足となりやすい。晴天時の午後は、根からの水分供給が間に合わず、気孔を閉じざるを得ない状態になることもある。夜間、水分吸収を行って欠乏状態は解消されるが、早朝までに余剰水分ができるまでに回復すると、出水が発生することになる。環境条件としては、地温が高く、根の活性が高いことが必要であり、空気中の湿度は極高い状態であることも重要であろう。放射冷却などによって気温が低下して夜露が発生する状況や、雨が降る直前などの空中湿度が高い時(もちろん、風が弱い条件は前提)などではよく見られ、山歩きでは先頭を歩きたくない状況となる。
すべての植物に水孔があるわけではないらしい。余剰の水を吸収してしまうわけであるから、湿地などの水が豊富な環境に生育する植物でおこりやすいであろうから、湿地生の植物は水孔を備えていて不思議はない。根の能力が高く、比較的水分を得やすい適潤地に生育する植物でも出水してもおかしくない。サトイモやアジサイ・ヤブガラシなどは比較的水分の多い環境に生育するが、湿地ほどではない。海岸植物であるラセイタソウでも出水と思われる現象を見たことがあるので、普通ならば乾燥していると考える立地に生育する植物でも、根の能力が相対的に高いならば、出水することもあると思う。
さて、出水はただ単に余剰な水分を排水しているだけなのであろうか? 根は、どうしようもなく水を吸収してしまうのであろうか(過剰になれば、吸水するのをやめたらいいのに)? 何か水孔と出水というメカニズムに利点はないのであろうか? 以下は「眉唾」ものとして読んでいただきたい。
植物のおしっこ?:植物は排出能力がない(?)。吸収した、あるいは生産された不要な物質は葉の中に蓄積しておき、落葉などによって結果的に排出するしか方法がない。しかし、水孔を通して出水する事ができるならば、体内の不要イオンや老廃物などを排出させることができる可能性がある。露を集めて分析すれば、比較的簡単にわかるかもしれない。もう一つの考えられる利点としては、水を積極的に吸収することによって、周辺の水を根に集め、栄養塩類を吸い寄せているのではないか、と考えてみてはどうか。根は根の表面に接する水からしか栄養塩類を吸収することができない。したがって、根の表面には常にフレッシュな水がやってくることが必要である。余剰な水があるほどの吸水は、そのような役割は確実に果たしている。