植物のプロポーション
2012年度調査結果
データはここをクリック
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A.目的
B.調査の手順
C.植物のプロポーション:データ整理とまとめ
D.参考事項
E.データ処理とグラフ作成について
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A.目的
植物が種子によって新たな場所に侵入したとする。根を出し、芽をのばして生長するが、種子に準備されている栄養分や葉から得た光合成産物を根・茎・葉にどのような割合で配分するかは、植物の種類や生育している場所によって違いがある。
乾燥地に生育することが得意な植物は根に十分な資源配分を行うことが予想されるし、初期成長の大きな種は葉や茎などの地上部に重点的に資源配分する植物に違いない。同一種であっても、乾燥した場所に生育を開始した場合には、他の組織に優先して根を発達させる必要があり、いつでも十分な水分を確保できる可能性が高い場所に生育を開始したのならば、根にはあまり投資する必要がないと予想される。
今回の調査では、野外に生育している樹木を可能な限り丁寧に掘り取り、根・茎・葉への資源配分の比率を調査し、植物種の違いや個体の大きさなどとの関係を考察してみる。
B.調査の手順
【野外の作業】
1.ターゲットとなる植物を決める。
2.生育地や成育状況を簡単に記録し、スケッチしておく。
3.植物を可能な限り丁寧に掘り取る。
特に根を切らないように注意する。切れても回収できればOK!
掘りながら、根の発達状況をスケッチする。
特に深さや垂直方向にのびる直根、横に広がる根などに注目する。
4.堀取った標本は、番号を付けてビニール袋に入れ、持ち帰る。
【実験室での作業】
5.根を失わないよう、丁寧に水洗する(泥を落とす)
6.樹高、太さ、根の長さ、などを記録する。可能であれば樹齢も判定する。
7.植物を 葉、茎、根の3部に切り分ける。
8.それぞれを新聞紙などの袋(標本番号を記しておく)に入れ、乾燥する。
100℃で24時間以上。
9.それぞれを電子天秤で精秤する。
10.全データをエクセルに入力する(1つのファイルに)。→データ配布
【各自の課題】データを解析し、レポートする。提出形態は自由。
C.植物のプロポーション:データ整理とまとめ方
1.データの性質を考える −今回のデータの精度・誤差は?−
電子天秤はサンプルが空気中の水分を吸収する量まで敏感に表示し、パソコンは一瞬にして無意味な桁まで計算してくれる。実験を行い、これらのデータから考察する場合、データの性質を十分考える必要がある。
生物を相手にする場合、物理や化学で実施可能な単純化した実験は実施しにくい。同一種であっても遺伝的特性が異なっている可能性があり、土壌や日照条件などの生育環境の違い、さらには芽生えてからの年月の中、虫害や踏みつけなどの生物適環境の違いもあるであろう。これらに加え、堀取りの精度を考えると、今回のデータの精度はどの程度と考えれば良いであろうか?
2.データの中に異常値が含まれていないか?
サンプルの中には、異常値が含まれていることがあり、これが結果に大きな影響を与える可能性がある。これらの異常値を判断し、除去する必要があるが、当然の事ながら異常値として判定するためには相当数のサンプル数が必要である。
3.平均できる(すべき)データ? −平均値か回帰式か−
データを種ごとに平均し、比較する方法は基本であろう。しかしながら、データに系列的な変化がある場合には、平均することは誤りである。具体的には、ほぼ同じ大きさの個体を計測したのであれば平均は適切な方法であるが、計測した個体の大きさに幅があり、生長するにつれて比率が変化しているのであれば平均することは正しい処理ではなく、たとえば回帰式を求めて比較することが必要になる。、データを一定の基準で配列してみよう。(今回は平均するしか、やりようがないかもしれないが・・・)
4.具体的な解析とまとめ
@今回は、栄養器官{球根、種子(ドングリ)、花など}を除いて処理する。
A栄養器官を除いた総重量を算出する。
B総重量から葉、茎、根の割合を算出する。
葉・茎・根の割合を表示するやり方には幾つかの方法がある。林学関係ではTR比が使われる事が多い。TR比は、Top(葉+茎)/Root(根)である。ある程度大きく生長した個体では、T/R=3〜4となることが知られている。TR比以外に葉/根あるいは、茎/根などの様々な比率を考案し、比較しても良い。
C種ごと、あるいは分類群(常緑樹、夏緑樹、ツル植物、草本など)ごとに平均値、グ ラフ表示、回帰式の算出などの解析を行う。適切な形態で作表し、グラフ表示を行う ことが考察を容易にする。常緑か夏緑か、樹木かツル植物かなどの生育型でまとめて みるのも一つの方法である。
D異常値の除去→Cへ
Eこれらの結果から考察を行う。
Fレポート提出(提出期限:6月末日)
・タイトル ・学生番号:氏名 ・目的 ・実験方法
・データ
・結果(グラフ、まとめた表など)
・考察
・感想・反省等
D.参考事項
○解析の対象となる植物に関しては、
植物雑学事典
に解説があります。
○植物の種類や生育地によってどのような違いが予想されるか考えてみよう
「幹と根」そして「葉」の重量
樹木の幹は年々太り、外側に新しい組織が形成されると共に、内側は働きを失って死んだ組織となる。したがって幹として計測される数値は、枝の一部などが枯れ落ちて失われるものの、基本的には芽生えてからの積分値であって、生きている組織と死んだ組織の値が合算されていることになる。根についても同様であり、太い主根などは小さな時からの積分された値となっている。
根の働きは、上部の幹や葉を支える支持組織としての役割と共に、水分や栄養分の吸収組織でもある。栄養分などを吸収する部分は、細かく分かれた根の先端部分であり、太い根は重量の割には表面積が狭く、吸収組織としてよりか、支持組織あるいは通導組織としての役割が主体であることになる。したがって、根の重量がそのまま葉の量と比例関係にあるわけではない。
種子重が違うとどのような戦略をとるべきか
種子重が小さい植物は、水を吸収する根をある程度発達させることは当然であるが、その次の段階ではまず光合成を行って収入を得るために、葉を発達させる必要がある。そのような種子は、発芽初期に安定した好適な環境が準備されている場所において生長を開始しない限り、定着が困難であると予想される。一方、種子重が大きく、栄養分をたっぷり持っている種子は、この豊富な栄養分をどこに使うであろうか?
落葉樹と常緑樹でどう違うか
落葉樹の葉は約半年の使用年限で消却することになる。一方、常緑樹の葉は数年間使用する。したがって長い年月の使用に耐えるような、丈夫な葉を作らざるを得ない。また、仮に毎年同じ重さの葉を造るとすれば、葉の重量は落葉樹ではその年の葉重量のみを、常緑樹では数年前までの葉重量を計測していることになる。このために結果として葉への配分率が違ってくるはずである。
草本・木本・ツル植物でどう違うか
草本にも様々な生育形態があり、樹木に似たものもあり、草として典型的な性質を持つものもある。樹木は年々葉を上の方に持ち上げることを基本的戦略としており、その葉を自らの茎によって支えている。ツル植物も葉を上層に持ち上げることを主な戦略としている点では樹木と類似しているが、その葉を自らの茎によって支えることは放棄している。即ち、茎は支持器官ではなく、通道器官であると考えることができる。これらの違いが、配分率に表されているであろうか?
葉と根、水の消費者と供給者の関係
根を水分の供給器官として見れば、根の量と消費器官である葉量との間には、一定の関係があるはずである。しかし、根には支持器官や通導器官としての役割もある。したがって草本や芽生えて数年までの樹木においては、消費器官と供給器官としての関係が明瞭であるはずである。葉が水分浪費型である場合には、根は十分発達していることが必要であるし、水分節約型の葉であれば、根への資源配分はあまり多くなくても良いことになる。
水分条件と配分率
乾燥しやすい場所に生育した個体は根に重点的に資源配分を行わざるを得ない。水を安定的に吸収できなければ、葉をより広げることは、枯死の危険性を増大させる結果になってしまう。多くの場合、乾燥しやすい場所は日光も十分当たる事が多く、小面積の葉であっても水さえ確保できれば高能率で光合成が可能であって、葉量を増加させるよりも、まずは根系を発達させることが得策であるはずである。
同じ植物でも、生長過程でどのように配分率が変化するか
芽生えた段階で採用する戦略と、生長する段階の戦略、さらには大きく生長してしまった後に採用する戦略はそれぞれ違う可能性がある。小さな個体の時にはなにをすべきであろうか。生長の過程では、そして大きく生長した段階では、どの部分に重点的に資源配分をすべきであろうか?
しかしながら、大きな個体を掘り取って全体の割合を計測することは容易ではない。今回の調査では、赤ちゃんから幼稚園までの植物個体を調査することになる。
(この他、遷移と資源配分に関する参考事項→植生学の内容へ)
○データ処理とグラフ作成について
1.種別に並べ替えを
エクセルの配列機能を利用し、同じ種を集める。
2.散布図を作ってみよう
2つの要素を選び、グラフツールで散布図を指定する。たとえば、総重量とTR比を選択し、散布図を描かせてみると、データがどのような分布となっているかが一目瞭然となる。もちろん、数字だけをじっくりにらんでも分かるはずであるが、ビジュアルで提示してくれると、格段に分かりやすい。散布図をじっくり眺めて解釈してみよう。
この時点で、異常なデータの存在が確認できよう。掘り取る際に根が切れてしまったものや、データのご入力などの可能性もある。これらを除去する必要がある。次に、データの傾向を見てみよう。たとえば、総重量が増加するにしたがって、TR比が大きくなる場合には、単なる平均値のみではなく、回帰式などを求めることが意味を持つ。
3.グラフの軸はこれで良いか?
小さな芽生えから大きな個体までが含まれている場合、小さな芽生えがY軸にはりついてしまい、解釈が困難になる。このような、大きさに極端な開きがある場合には、対数軸を利用すると分かりやすくなる。軸のをダブルクリックし、表示方式を対数にしてみる。
4.グラフの軸の最小値、最大値について
エクセルは選択されたデータから自動的に最大値・最小値を決定してグラフを作成してしまう。このために似たようなグラフではありながら、実際には最大値が大きく異なるグラフであって、解釈を困難にする場合がある。必要であれば、軸の最大値・最小値を指定し、比較が可能なグラフにする。
TR比
樹木のプロポーションを表現する比数として、TR比という数値がある。
TR比=T(trunk;幹)/R(root;根)
この数値は樹木の苗木生産などでよく使われ、優良な苗はTR比が3〜4であると言われている。しかしながら、実際に販売されている苗の中には、10近い値の苗も販売されている。即ち、地上部ばかりが大きくて根がほとんどない「見かけ倒し」の苗なのである。このような苗は、栄養分をたくさん含んだ土に栽培され、水も十分に与えられて育成される。根を発達させる必要がないので、地上部に資源配分がなされ、確かに地上部はすくすくと育った優良苗ではある。しかし、このような苗を購入して植栽すると枯死してしまったり、活着しても、当面は根量を増やすために地下部にばかり投資するので、ほとんど生長しないことになってしまう。
苗の販売基準は、地上部の高さや幹の太さなどの「地上部の見た目」である。したがって、苗の生産業者は「密植」、「多肥」、「十分な灌水」という条件での育成を行いやすい。このような苗を工事後の痩せた法面などに植栽すると、その後の活着率と生長は著しく悪い。苗を見る眼を養いたいものである。