U.衛星画像等のデータと統計的解析
 人工衛星や航空機などから地上の情報を収集する技術をリモートセンシィングという。対象物に対して離れた場所に設置したセンサーから情報を得る手法であるが、通常、人工衛星による情報取得を意味している。ここでは衛星により取得された情報を地上の植生解析に対して適用する手法について述べる。

1.衛星の種類と画像精度
 センサーを搭載した衛星にはいくつかの種類があるが、代表的なものをあげてみよう。

a. ノア(NOAA-X)
解像度走査幅観測周期センサーの種類
1.1km3000km0.5日可視近赤外域2 中間赤外域1 熱赤外域2 の合計5バンド
特徴画像は安価であり、分解能は低いが広範囲のモニタリングが可能。観測周期が短く、季節変化に関するデータを収集できる。

b.ランドサット(LANDSAT-X)
解像度走査幅観測周期センサーの種類
30m(B6;120m)185km16日可視近赤外域4 中間赤外域2 熱赤外域1 の合計7バンド
特徴植生解析には最も多用されている衛星画像。多種のセンサーにより、植生の種類をある程度解析することが可能。

c. アーリーバード(Earlybird)
解像度走査幅観測周期センサーの種類
パンクロ3m
カラー15m 
パンクロ6km
カラー30km
20日
ポインティング機能を作動させた場合3日
可視域中心
特徴走査幅が非常に狭い。ポインティング機能を使った画像のゆがみが大きい。波長帯が少ない。


 これらの衛星の性能は、大きく衛星の軌道高度に関わっている。軌道が高ければ、一度にデータを得ることのできる走査幅が広く、同じところを観測できる観測周期は短いことになる。しかしながら解像度が低いものとなるのは当然である。一方、低高度の軌道を周回する高解像度の衛星では、走査幅が狭く目的のデータ入手が困難となり、広い地域の情報を得ようとすると、高額な経費が必要となる。
 ポインティングは、あらかじめ指定しておいた地点にセンサーを向けてデータ取得を行うものである。これは、低軌道衛星の観測周期が長いために利用される作業であり、地上から指令してセンサーを動かし、データを取得する。その際、衛星が真上を通過すれば問題はないが、元々そのような事が少ないために考案されたシステムであり、斜め方向からのデータ取得になるので、例えば山地や建物を斜め上から撮影した状態となってしまうことが多い。

2.高高度衛星の特性
 高高度軌道を周回するノアなどの衛星では、解像度はkm単位であり、地表面の詳細な解析は不可能であるが、1日に2回程度の画像を得ることができるので、季節変化を解析する際には好都合である。雲があっても多数の画像を重ね合わせることができるので、「雲なし画像」を作成することが可能となる。
 詳細に季節変化をとらえることができるので、常緑か落葉かあるいは穀物の作柄などを把握することができる。ノアの画像からは、地球レベルの植生図作成や、穀物の作柄などに関する情報が得られ、国際的な穀物取引などに活用されている。


地球レベルの植被率図(1kmメッシュ)

3.低高度軌道衛星の画像特性
 特に低高度軌道を周回する衛星の画像はm単位の解像度を持っており、自動車等を判読でき、水田の畦なども判読できる。しかしながら、希望する場所の適切な画像を入手しにくい点や多種類のセンサーを搭載していないことなどの問題点がある。
 ここで、希望する条件を備えた衛星画像の入手可能性について考えてみよう。例えば、紅葉した秋の画像を得たいとする。中緯度から高緯度の地方では、太陽高度が低いので、山地の北斜面は日陰になってしまいやすい。日陰が広くない画像が欲しいとすれば、太陽高度が高い昼前後の数時間のデータ取得が望ましいことになる。太陽が南中する前後1時間のデータを望むとするならば、20日*(24時間/2時間)となり、240日に一度の確率となる。季節的に許される日にちが紅葉の美しい1ヶ月であるとすれば、240日*(12ヶ月/1ヶ月)となるので、7.9年に一度の確率となってしまう。更に、その日雲がない天候である可能性はどれくらいなのであろうか?(雲に覆われた地域は解析できません)。
 このような状況から、当面航空写真を得ることができれば、航空写真に勝る画像を超低高度軌道衛星の画像から得ることは現実的でない。

4.ランドサットの画像と植生図化の実際
 現在、植生図等の解析に最もよく利用されているのがランドサットである。ランドサットの解像度は約30mであり、個々の樹木の樹冠の形状を取得することはできないが、1つのピクセルはほぼ植生調査を実施する面積程度であり、その意味では植生の解析に利用できる最低限のサイズであるといえよう。
 ランドサットは7種類のセンサーを備えており、それらを組み合わせて利用することにより、植生のタイプをある程度解析できる。

(1)植物の吸収スペクトルとセンサー
 植物は太陽光を吸収し、光合成を行っている。下図はその吸収曲線である。赤色光領域と青色光領域に吸収の極大があり、中間の550nm付近は吸収されず、葉を通過あるいは反射される。植物が緑色に見えるのは、この植物が利用していない光の部分である。このような光合成に伴う光の吸収とともに、植物は蒸散を行うので、裸地に比べて温度が低い。このような無植生地域との温度差は赤外線の放射量として把握することができる。

ランドサット5号機のTMセンサー
可視近赤外域    中間赤外域
 B1:420-520nm     B5:1550-1750nm
 B2:520-620nm     B7:2080-2350nm
 B3:630-690nm   熱赤外域
 B4:760-900nm     B6:10400-12500nm 

 ランドサットは上記のような7種類の波長帯に関する情報を取得できるセンサーを備えている。バンド1(B1)はクロロフィルの吸収する青色付近に設定されている。バンド2(B2)は植物が利用しない緑色光域に設定されている。バンド3(B3)はクロロフィルが吸収する赤色光域に設定されており、植物の生育状況に関する解析に適した設定である。これらの他に赤外域のバンドが温度要因として採用されるのが普通である。

(2)ランドサット画像による解析例
 次の画像はランドサットデータを疑似カラー表示したものである。いくつかのバンドを利用し、それぞれを適当な色に割り当てて表示させたものであり、実際のカラー画像ではない。つまり、赤外光は人間には見えないわけであり、その赤外のバンドを例えば赤に割り当てたものである。衛星がデータを収集している間に、地球が自転するので画像はずれていく。この場合、ランドサットは赤道側から北極側に通過したわけである。


 衛星画像は丸い地球を撮影しているわけであり、画像の周辺は中心部(軌道直下)に比べて遠いわけであり、ゆがんでいる。画像データはこれらを補正した状態で提供される。このようなデータは、各波長を組み合わせることにより、様々な画像となる。つまり、カラーバランスを変更することによって、得られる情報が異なることになる。ここからは試行錯誤が繰り返され、目的に合致した画像を作成することになる。


 上の画像はランドサット-5の画像例である。疑似カラー画像であり、この段階では植生との当てはめは行っていない。ゴルフ場のコースが明るく見えている。右側のうえ側と中程は完成したゴルフ場。中央のうえ側には、造成途中のゴルフコースが見えている。中央下側の黒い部分は市街地である。


上の画像データの内、チャンネル3,4,5を用い、14段階の階調表示したもの。この段階では、それぞれの階調は何を示しているのかはわからない。教師ポイントのデータをサンショウしつつ、当てはめていく。ゴルフ場は明瞭に示されており、市街地もよくわかる。黄色の部分は水田地帯であろう。肝心な部分:すなわち森林の部分が判読できないと意味がない。十分に当てはめ判読できる状態ではないようだ。


 ランドサットの複雑な画像を、まとめ上げる。この作業は手作業になる。線を引いてその中を塗りつぶす作業になってしまう。


航空写真から作成した植生図。この植生図を作成した段階では、中央上部のゴルフ場は造成を開始したばかりの状態。
凡例番号33番はアカマツ林(赤茶色)、37番はコナラ林(黄土色)。これが判読できないと、衛星画像は植生図作成に関しては高い精度を期待できる状態ではないということになる。
この一連の画像は、すでに作成してある植生図が「教師」であったわけで、通常はこれほどの精度の高い教師は存在しない。したがって、より精度は落ちるであろう。

○教師の重要性


○衛星画像解析の問題点
  ・太陽高度が低いと南北斜面の違いが非常に大きなものとなり、判読が困難
  ・解像度が高い衛星では観測周期が長いため、良好な条件を備えている画像データを得るチャンスが少ない。(太陽高度、雲なし画像、季節変化)
  ・ポインティング画像のひずみが大きい
  ・高精度な解析を行うためには多数の教師データが必要である。
  ・高解像度の画像データを取得するためには、高額な費用が必要である。

○現況における評価
 衛星によるリモートセンシングに関しては、NOAAによる広域な情報取得と解析は大きな成果をあげてきた。一方、各種の高解像度センサー開発は、航空写真のレベルに迫る解像度を実現できる段階にまで至っており、航空写真に代わる情報として期待される。しかしながら、高解像度になるほど航空写真と同様な問題点が存在することが明らかとなり、多チャンネルによるデータ取得という衛星画像の利点を十分活かすことができているとは言い難い。
 日本の測地衛星「みどり」の運用は植生解析に大きく貢献すると期待されていたが、試験運用期間中に機能を失うなど、衛星の交代、安定的なデータの取得などにも問題が生じている。ランドサットも後継機の打ち上げに失敗しており、現行機は予定寿命を越えて運用されている状況である。将来打ち上げられる予定の後継機は現行とは異なるセンサーを搭載することが決定されており、現在のデータとの互換性が低いなどの問題点が予想される。
 このような中、衛星データは航空写真に勝る状況とはなっていない。

○航空写真による植生図作成
 航空写真は一定の高度から連続的に写真を撮影する。撮影の際には2/3程度の面積が重なるように撮影されるので、立体視が可能である。この作業を精密に実施することにより、高さを算出することができ、航空測量による地形図作成が行われている。


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