生態学概論　Introduction to Ecology　　

　「生態学」という漢字を眺めてみると、「生物」+「態度　or　状態」と解釈できる。「生態学」を最初に用いたのは、三好学（1869）であるという。生物がどのように生きていくかといったニュアンスが伝わってくる。対象とする生物が単一の種か、多くの種を取り扱うかは別として、その生物たちの生きていく状態・態度を研究する学問であると言えよう。

　○英語は「生物経済学」　Economy+Biology＝＞Ecology

　Ecologyは、経済学と生物学を合成して作られた言葉である。日本語の生物が生きる態度といったニュアンスとは大きく異なっている。生物がどのように生きていくと効率的であり、優位に立てるか、といったアプローチを行う場合、まさに「生物経済学」という名前はぴったりである。突き詰めれば、どのようなアプローチであっても同じことになるわけではあるが、東洋的観点と西洋的観点の違いを感じさせるネーミングである。

　○環境と生物の関係を研究する学問

　「生態学」という言葉を、生態学事典（2003）から先頭の部分のみを引用してみよう。


生態学　ecology 　個体もしくはそれ以上のレベルでの生命現象に主な関心をよせる生物学。whole　organism　biology　という言葉もある。また、「生物の生活に関する科学」ともいう。「生物と環境との関係を扱う科学」ということもあるが、そのときの環境には、気候や降水量、塩濃度といった物理的要因だけでなく、餌、捕食者、寄生者、競争種などの他種、そして何よりも同種の他個体の影響を含む。・・・・・・・｛生態学事典（2003）｝


　

　○個体段階から地球レベルまでの多様な段階を対象とする学問

生態学の研究対象は、遺伝子や含有する化学物質のレベルから、地球レベル、少なくとも太陽系のレベルにまで広がっている。また、種を研究対象とする場合を考えてみるならば、生物の種は500万とも5000万とも言われており、種数すら明らかになっていない状況である。種の生態を明らかにするだけで気の遠くなるほどの研究対象の広さ、多様さである。


対象のレベルから見た生態学 生理生態学：個体の生理反応 行動生態学：動物の行動 個体群生態学：種の繁殖・死亡・分散 群集生態学：多くの種の相互関係と共存、時間的な変遷（遷移） 生態系生態学：生物同士の関係だけでなく、土壌や気象などの物理的な環境を含めたシステムを対象 研究フィールドから見た分類 海洋生態学、陸水生態学、森林生態学、高山生態学・・・・ 研究対象から見た分類 植物生態学、微生物生態学、哺乳類生態学、昆虫生態学、・・・・・・・ 着目点から見た分類 繁殖生態学、花生態学・・・ 研究手法からみた分類 空間生態学、統計生態学、分子生態学・・・ 応用の方向性からみた分類 保全生態学、農業生態学、生態工学・・・・

○人類の生存を保障するエコロジー

　生態学は、その研究対象故に、いわゆる環境問題と密接にかかわることになる。環境アセスメント、地球温暖化・・・・

○「環境」の定義

環境　environment

無機的（物理的）環境　physical　environment

温度、湿度、風速、土壌、地形、地質、光、栄養分・・・・


生物的環境　biological　environment

同種の他個体、類似した要求を持つ他種の個体、餌となる生物、捕食者、寄生者、花粉媒介者、種子散布者、営巣環境としての生物、人類・・・・・