生態学概論 Introduction to Ecology (6)
カマキリとハリガネムシ カマキリの腸管には、ハリガネムシという線虫が寄生する。岡山県は寄生率の高い地域であり、夏から秋になると、よくお目にかかることができる。カマキリが車道で潰されたりすると、長さ10cm前後の黒いハリガネ状の虫が出てくる。秋になると、カマキリの行動が変化し、水場に行きたくなるのではないかと思うが、定かではない。とにかく、秋になるとカマキリが道に出てきてウロウロしていて、車に轢かれるのである。 ハリガネムシがカマキリから脱出するためには、車にひき潰されることが必要ではなく、小川やため池などの水場で、ハリガネムシは脱出してくる。ハリガネムシは水中でクネクネと泳ぎ、水草に産卵する。ハリガネムシの卵からかえった幼虫は、動物プランクトン→水生昆虫へと移行する。水生昆虫が成虫となって空中へ飛び出し、カマキリに食べられることによって、最終的な宿主であるカマキリに寄生する。 最近は小川らしい小川が少なくなり、ハリガネムシも苦労しているのではないかと思う。 道路上で干からびているハリガネムシ
白菜と回虫 化学肥料がなかった時代、主要な肥料は下肥(人糞)であった。人糞を肥え壷に貯蔵して発酵させ、畑などに肥料としてまいた。このために回虫の卵が白菜などの野菜に付着することになる。野菜には、数十から数百の回虫卵が付いているのが当たり前であり、野菜を生で食べることは、回虫に寄生されることと同義であった。 人→糞尿→野菜→人
野菜を生食する料理法を「サラダ」というが、これはカタカナであって、外来語である。すなわち、日本には野菜を生食する習慣はなかったわけである。野菜を生食する習慣は太平洋戦争後に進駐したアメリカ軍によってもたらされた。しかしながら日本の野菜は生食できる状況にはなく、サラダを食べた多数のアメリカ兵が回虫の寄生被害をこうむったのは当然であった。その後、生食の必要性から下肥によらない条件で栽培された「清浄野菜」が出回り始め、日本にも生食の習慣が定着することになる。化学肥料が生食を可能にしたともいえよう。
閉じた系が存在する場合には、寄生虫が存在できる可能性が発生する。淡水魚を生食すると、寄生される可能性が高く、地球上で魚を生食する習慣がないのはそのためである。サケなどの河川に回帰する魚は別として、海にのみ生息する魚類は陸生の哺乳類に食べられる可能性は、生物の進化の歴史上なかったわけで、そのような仕組みは発達してこなかった。(将来的にはわからないが・・・・) 最近、川魚の刺身が料亭の料理として登場することが多くなった。通常の食物連鎖からはずれた育成法で育てられた養殖では、哺乳類をターゲットにした寄生虫が存在し難いためであるという。キングサーモンなども養殖であり、御寿司の代表格になってしまった。昔は鮭の類はサナダムシの中間宿主であり、決して生食はしなかったものである。塩蔵は当然として、少なくとも冷凍してルイベとした。養殖によって安全・安心な食品へと変身した食べ物ではあるが、所変われば品変わる可能性があり、異国での食材選びと調理法に関しては、郷に従わなければならない。 |