T.群落の構造と分布
2.極相植生と二次植生
    (1)極相植生 climax vegetation
     植生が発達していくと、やがてこれ以上景観や種組成が変化しない植生となって安定する。このような植生を極相植生 Climax という。自然植生に近い概念である。森林を例に取ると、次第に発達した森林はやがて部分的に樹木が枯死したり、台風によって倒伏したりするので、部分的には良好な森林が、また一部には破壊から回復しつつある植生が存在することになる。したがって、極相林とよばれるものも、いくつかの異なったステージの森林がモザイク状に発達したものとなっている。
     1つの森林を発達段階から見れば、それぞれの樹木が成長してバイオマスが増加する「建設相」、それに続く「成熟相」、さらに樹木が大きく生長して効率が低下した「過熟相」、高木の一部が枯死し始める「衰退相」の各段階を経過する。高木が衰退すると、やがて下層の樹木がその穴を埋めるように生長を開始し、再び建設相へのサイクルが始まることになる。このように、極相林と一括して呼ばれる森林も動的なものであり、面的には様々な段階の相がモザイク状に発達していることになる(極相モザイク説)。
     極相と呼ばれるものにも、次のようないくつかの概念がある。

     a.気候的極相
      気候は北に行くほどあるいは高海抜地ほど冷涼となり、これに対応した極相植生が発達する。世界的な視野に立てば、降水量の違いによっても極相植生が異なる。このような気候に対応した極相植生を気候的極相とよぶ。具体的には暖温帯にはシイ-カシ林が、冷温帯にはブナ林が、寒帯(亜高山帯)には針葉樹林が発達する。

     b.土地的極相
     極相植生の中には、気候的要因に支配されてはいるものの、成立する立地環境がより強く植生を支配している場合がある。例えば、河川のような立地環境では、気候帯によって違いがあるものの、河川としての共通性がより高い。具体的には、河口域にはヨシの群落が発達し、中流域においてはツルヨシの群落が、上流域ではネコヤナギなどの群落が特徴的に見られる。このように、立地環境の物理的環境が支配的である場合、気候帯を越えて類似した極相が発達しており、これを土地的極相という。
     蛇紋岩などの特殊な成分を含む土壌地の植生や崖などの急傾斜地の植生、湿原植生、河川植生、湖沼植生、海岸(砂浜・砂丘・岩石海岸)植生などがこれにあたる。

    (2)二次植生 secondary vegetation
     極相植生が何らかの原因によって破壊された後に再生した植生を二次植生という。身近な自然のほとんどは人類の活動によって利用されてきた二次植生である。二次植生も遷移し、長い年月が経過すると極相に到達することになる。