1.地質概説-植生の立場から-

 岩石が違えば、岩石が風化して形成される土壌の性質は違うに違いない。そして土壌の性質に差があれば、植生にも違いがでてくるはずである。また、土壌の違いによって土壌中や斜面における水の流れ、また栄養分の動きも違うはず。さらに、風化に対する抵抗性、侵食に対する抵抗力は地形や土壌の厚さにも大きな影響を与えるに違いない。
 地質の分類は、当然地質学においてなされている。しかしながら、そのような分類体系が植物にとって、どのような意味を持つのか、植物に与える影響の観点からは、ややニュアンスは異なっている。地質に関し、植生の立場から考えてみる。

a.火成岩 volcanic rock
 マグマが冷却され、固まって形成された岩石であり、主に次の2つの観点から分類されている。

@深成岩、火山岩 -冷却速度による分類-
 マグマがどのような条件下で固まるかによる分類である。地層の深い場所でゆっくりと温度が低下し、固化して形成された深成岩では、造岩鉱物の結晶は大きく成長する。一方、火山などから地上に噴出し、急激に冷却される場合には造岩鉱物は結晶化せずにガラスとなるか、小さな結晶を形成する。このような岩石を火山岩という。

 深成岩から火山岩への系列は、冷却速度あるいは固化する速度であり、ゆっくりと冷却すれば、結晶は大きく成長する。したがって、深成岩が風化すると、風化しにくい石英が残り石英砂を主成分とする透水性の高い砂質土壌が形成される傾向となる。一方、火山岩では微細なガラスから構成されており、風化が進行すると粘土と微砂・細砂などからなる透水性の低い土壌が形成される傾向にある。

 深成岩の典型は花崗岩であり、造岩鉱物の斑紋が美しい。結晶の大きさには小さいものから大きなものまであり、岡山県南の万成花崗岩は大きな結晶から構成されている花崗岩として有名である。花崗岩が風化して形成される真砂土は透水性の高い土として有名であり、透水性の高さからグランドなどの土壌として、あるいは空気を多く含むことから、園芸や農業などでも利用される。花崗岩地帯では、透水性が高いことから、風化が深層にまで及びやすく、地下100mにも及ぶ風化帯が形成されることがある(深層風化)。

 代表的な火山岩は流紋岩である。流紋岩は火山活動によって噴出した火山灰や溶岩が堆積して形成されたものであり、水底に堆積して形成されたものでは堆積時の層が流紋に見えることもある。岩質には変化が大きいが、非結晶質の部分が多く、風化によって粘土が多い土壌を形成する結果、水分保持力は高いものの、透水性は低く、地下水が深部に到達しにくい。そのため、風化深度は浅く、表面に留まることが多い。

A酸性岩、塩基性岩 -成分による分類-
 珪酸(SiO2)の含有量に着目し、69%以上含むものを酸性岩、93〜63%のものを中性-酸性岩、63〜52%のものを中性岩、52〜45%のものを塩基性岩、45%以下のものを塩基性岩という。珪酸は造岩鉱物の中ではガラス、石英、水晶の形態をとる。化学的に非常に安定であり、水に溶けない。したがって珪酸という名称がついているものの、酸として働くことはないので、実際の岩石が酸性であるとか、アルカリ性であるということではない。

 珪酸は石英として含まれていることが多いが、石英は半透明であり、白色に見えることから、石英を多く含む岩石は白っぽく見える。また、石英は他の造岩鉱物に比べて比重が小さいことから、石英を多く含む酸性岩は、比重が小さい傾向がある。塩基性岩は酸性岩の逆であり、珪酸の含有量が少なく、有色鉱物を多く含むことから灰色から黒色に見えることが多く、また比重は大きい傾向がある。

 塩基性岩でも深成岩であれば、石英の結晶は大きく、風化によって透水性の高い土壌が形成される可能性があるが、実際に我々が接する中性岩や塩基性岩は安山岩質溶岩や玄武岩質溶岩などの火山岩であることがおおく、砂質の土壌が形成されることは稀であり、透水性の低い土壌が形成され、風化は深部まで進行しない。

b.堆積岩
 堆積岩は堆積した母材の性質が多様であり、石灰質を多く含む石灰岩や母材の粒度組成に基づく分類、あるいは変性の度合いを示す分類などがあり、これらを組み合わせた名称が用いられている。

@堆積物による分類
 主要構成成分が、礫であれば礫岩、砂であれば砂岩、粘土などの微粒子から構成されていれば、泥岩ということになる。このほか、放散虫などの遺骸が堆積して形成されたチャートやサンゴ礁に由来する石灰岩、植物の遺骸が堆積した石炭なども堆積岩である。陸からどれくらい離れて堆積したのか、ということが粒度に繁栄している。

A固結状態による分類
 未固結の段階から硬く固まった段階まであり、堆積状況が反映して薄くはがす事ができるものもある(頁岩など)。

物理的風化と化学的風化

 灼熱の昼と放射冷却の夜を繰り返す砂漠では、温度変化の大きな部位と小さな部位との間でひずみが生じ、やがて破壊が生じる。温度変化によるひずみは造岩鉱物の間でも、膨張率が違うことによって生じる。この微細なクラックに水が入って氷結すると破壊は決定的となる。このような温度差や氷結などの力によって生じる風化を物理的風化という。砂漠において典型的であるが、日本においても高山などの寒冷地では物理的風化の例をみることができる。

 多くの風化は温度が激変する環境ではなく、逆に安定的な地中や水中で起こる。化学反応は水に物質が溶解し、イオンとなる環境で進行する。岩石が水に溶けることは認識しにくいが、水に溶けやすいあるいは化学反応しやすい造岩鉱物から風化していく。河川の水中では大量の新鮮な水が石を洗う結果、尖った部分が最も溶けやすく、角のない石ができる。地下に浸透した地下水は土中や石のミネラルを溶かしこんで、ミネラルウオーターになる。つまり、その程度は石が溶けているということなのである。

 風化して形成される土壌の透水性が高ければ、地下水はさらにその下層に到達して風化を進行させる。花崗岩の深層風化がその例である。一方、風化によって透水性の低い土壌が形成される場合には、雨水は垂直方向にはあまり移動せず、地表付近を移動して、風化は地下深くに及びにくくなる。地表面付近だけを水が流れるので、地表面付近が溶脱されて流れる水に溶存するミネラル量は少ない。

 化学的風化は二酸化炭素の存在によって、より急速に進行するはずである。二酸化炭素は水に溶けて炭酸となる。炭酸は弱酸ではあるが、風化の進行に一定の役割を持っている。二酸化炭素は豊かな森の土壌で発生量が多い。地表面には落葉や落枝などの大量のしょくせいが有機物が供給されているし、土壌中に大量の根系が存在し、細い根はに更新されている。これらの有機物の供給を源とし、細菌類や菌類などの分解者そして土壌動物などの消費者が活発に活動し、二酸化炭素を発生させている。この二酸化素は地下水に溶解して炭酸となる。したがって、植生が豊かであるほど母岩の風化は進行しやすく、地下水はミネラルを多く含むことになる。流域に豊かな森が発達している海は豊かであると言われる由縁である。

 植物の中には、菌類と共生しており、菌類の中にはシュウ酸を分泌して鉱物を分解することができるものがあることが知られている。アカマツとマツタケ菌がこの関係にあり、アカマツは光合成産物をマツタケ菌に提供し、マツタケ菌は鉱物を分解してミネラルや水分をアカマツに提供する。シュウ酸は石英をも浸食するほどの酸であり、ガラスをも腐食することがある。珪酸は多くの植物で栄養分として吸収される微量元素であるが、この珪酸を供給するシステムの1つはこの菌類によるシュウ酸の分泌であると考えている。このような積極的な酸の分泌ではないが、有機物の分解過程において腐植酸と呼ばれる様々な有機酸が形成される。これらの酸も鉱物の分解に貢献しているはずである。

 もちろん、根の肥大は物理的な力として効果し、岩も砕くことになる。ミネラルが供給されることのない頂上や尾根などでは、ミネラルを吸収するためには、岩を分解する以外にないわけであり、そのような地形であっても植生が発達している事実が、植物による鉱物の分解を証明していると言えよう。

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