2002年8月のヒイゴ池湿原
 −平成14年度 岡山自動車道総社地区自然環境整備事後検討業務 現地視察(2002/08/05)−

    沈砂池の周辺に植栽したハンノキ
     沈砂池への転落防止の役割ももたせたハンノキの植栽は、良好な生育を示している。大きく生長するとともに、本数が減少しているので、将来的には適度に伐採・萌芽させ、転落防止に有効であるよう、管理する必要があろう。ハンノキハムシなどの生息が見られる。
    下流部のハンノキ林
     もっとも下流の地域は明るいハンノキ林への導入が目標植生である。生育しているハンノキは当地に元々生育していたものを工事期間中畑へ移植しておき、工事の進捗にともなって植え戻したものである。
     生長が良好であるので、生育本数を減少させて現在に至っている。ほぼ、目標植生を達成できている。
    ハンノキ林の林床に発生したハンノキの稚樹
     ハンノキ林の林床には、ハンノキの稚樹が多数発生している。このまま残すと暗い森林に発達してしまうので、適宜伐採が必要であろう。ハンノキは大きく生長すると勢いが衰えるので、このような稚樹の一部は残し、後継木として育てることが望ましい。
     このようなハンノキの稚樹発生は、この地域の地表面がハンノキの芽生えが定着・生長できるほど、明るいことを示しており、今後は植生の発達にともなって、これほどの発生が見られることはなくなるであろう。
    トンボ池の状況
     湿原の最下流部には、トンボなどの水生昆虫の生息場となるよう、池を設置した。当初、表水域に残したハンノキは枯れてしまった。水に強いハンノキではあるが、水中では生育が困難なようである。
     水は赤褐色に濁っている。わき出る地下水に多量の鉄分が含まれているので、赤く染まることは致し方ない。この池にはフトヒルムシロなどの水草を幾度か植栽したが、結局定着しない。水の透明度が低いために水草の生育が不良である点もあるが、なんといってもアメリカザリガニの大発生が問題である。おそらく、ザリガニが水草類を食べてしまうのではないか?と思っている。トンボ類のヤゴはザリガニの餌食になってはいないか・・・? どうなのでしょう。
     ちなみに、この池にはブラックバスが放流されてしまった。水を抜いてブラックバスを退治したのだが、ブラックバスが居なくなるとアメリカザリガニが増えてくる。難しいものである。
    中部の状況
     湿原の中部は良好な状態に保たれており、イヌノハナヒゲを中心とした植生が密に発達しており、この地域における典型的な湿原植生の様相となっている。工事直後は富栄養となり、イヌノハナヒゲの草丈が1mに近いものになってしまったが、現在は落ち着きを示しており、ほぼ通常の草丈になっている。このような植生状況で維持できれば成功である。
    サギソウの生育状況
     湿原全体では、サギソウの個体数は増えつつある。新しく湿原を造成した地域では、種子によると思われるものの個体が増加しつつある。造成した次の年頃に侵入した個体が十分に開花する大きさにまで生長したものと思われる。
     花は1茎に5花も付いているものがあり、美しく豪華ではあるものの、サギソウとしては大きく生長しすぎである。植生の回復が十分ではない段階なので、サギソウにとっては良好な生育環境なのである。やがて、他の植物の繁茂にともなって、落ち着くであろう。
    湿原中部の状況とサギソウ
     元々湿原であった場所は良好な植生状態を維持しているが、このような場所のサギソウは狭い範囲にかたまって群れ咲いている。サギソウは条件がよければ地下茎を出してその先に1株が4〜5つの球根を形成するが、このような状況が数年間継続され、50cmから1mの範囲にサギソウの群生地が形成されているものであろう。
     点々とハンノキの生育が見られるが、毎年刈り取っているものの根絶できていない。堀取ることも必要であるかもしれない。
    ミミカキグサ・ホザキノミミカキグサ
     新しく造成した地域では、植生が地表面を全面に覆っていない。このような場所では、ミミカキグサやホザキノミミカキグサの生育がよくめだつ。
     ミミカキグサ類やモウセンゴケなどの非常に小さな植物の生育には、他の湿原植物の生育が少ないことが必要である。将来的に湿原植物が全面を覆ってしまう状況になれば、このような小型の植物の生育は望めなくなるので、何らかの攪乱によって遷移を初期段階にまで戻す必要があるであろう。
     自然界では、イノシシなどの泥浴びもこのような役割を担っている。
    湿原の全景
     高速道路の4車線化にともなって、隣接する斜線を走行する車両からの光やトンネル照明などによる昆虫の光誘引を防ぐため、道路との間に不織布によるフェンスを設置し、これにツタを絡ませて遮光させている。このほか、トンネル内部の照明光が湿原域に影響を与えないように、常緑樹を湿原の上流域に植栽している。このために、この角度からは湿原が見えにくくなった。トンネル照明からの遮光ができているということではある。
    フェンスに絡まったツタ
     土壌も不良であり、乾燥する立地であるのでカナリーキヅタやセイヨウキヅタの生育はあまりよくない。しかしながら、フェンスそのものは十分な機能を果たしているので、景観上ツタが繁茂して欲しいものではあるが、いたしかたない。ま、時間が解決してくれるのではないかと思われる。

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