黒木湿原  岡山県苫田郡加茂町 海抜:約460m 黒木ダム堰堤左岸
 1995年だったであろうか、自然保護センターの西本研究員と細池湿原を調査した帰り、かねてより聞いていたハッチョウトンボの生息地を尋ねてみた。場所は黒木ダム建設の際に岩石を採取した跡地である。基盤は切り取られた花崗岩のほぼ平坦な露岩であり、低いところには水がたまってアゼスゲなどのスゲ類が生育しており、沼地となっていた。水は南側の山から流れ出ており、水質は申し分ない、貧栄養なものであった。岩盤の上に薄く土を敷いて水を導けば、簡単に良好な湿原が形成できると思われた。そこで、早速わずかな予算で湿原をつくることができ、ハッチョウトンボなどの生息地としても良好な自然が再生できることを提案した。その後、岡山県の複数のセクションがこの事業に着目し、結果的には相当な金額の補助事業として実施に移されることになった。1996年のことであった。
 当初の提案としては、花崗岩の風化土壌である「真砂土」をダンプで持ち込み、適当な勾配に均した後に、水路を付け替える程度のものであったのだが、結果としては四阿(あずまや)や周辺の公園も含んだ大規模な事業となってしまった。湿原部分は大きな石が持ち込まれ、見事な石組みが出現した。湿原の境界部分は、緩やかな傾斜を持つ土盛りとし、陸地と湿原の境界部分は自然性の高いものとしたかったわけであるが、種によっては移動が困難なほどの見事な石組が施工されてしまった。予算の金額に見合った設計・施工であったわけである。
 最大の問題点は、元々生えていた植生をほとんど全て捨ててしまったことにある。聞けば、業者がめんどくさがってダムに捨ててしまったとのこと。確かにアゼスゲの株は掘り取りにくかったには違いないが、復元に使用する植生がなくなってしまった。そのことを聞いたときには、暗澹たる思いであった。
 積雪の多い地域であり、完成したのは1997年の6月であった。6年後の状況を報告しておこう。


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