黒木湿原の評価 |
今回訪れてみると、「黒木湿原」の看板がかかっていた。町としてはこのような名前にしたらしい。詳細な調査を行ったわけではないが、とりあえずの印象を記しておこう。 植生としては、当初予想した通りのものとして実現できている。過剰工事と言いたくなるような実態があっても、湿原として発達できる基本的な環境「水質・水量・日照」の条件が備わっていたので、地形さえ整えればこのような植生が比較的簡単に創造できる結果となった。 【問題点】 この地域には、地形的に急峻であるために湿原が少ない。このために湿原植生としては種の欠落が顕著である。例えば、比較的近い位置にある細池湿原においても同様であり、コイヌノハナヒゲやオオイヌノハナヒゲなどのミカヅキグサ属植物が欠落している。ちなみに細池湿原は5万年前後の歴史を持つものであると推定されている。このような長い歴史を持ちながらも種の欠落の多さは、伝播の可能性が低い、孤立的な場所であったと考えざるを得ない。 黒木湿原をつくった地域においても、種の欠落は大きく、典型的な湿原植生の種としては、モウセンゴケしか生育が確認できる状況ではなかった。これらの事から、岡山県自然保護センターから少量、植生を搬入して植栽した。自然保護センターの湿原そのものも3つの地域から持ち込まれた植生によって成立したものであるので、持ち込まれた植生の由来そのものが不明に近い状況になってしまっている。 本来ならば、可能な限り類似しした立地環境にある湿原から植生を持ち込むべきであったが、植生の採取は湿原の墓にも繋がりかねず、このような場合の問題点として留意しておかなければならない。 【目標の達成度】 当初より、湿原植生の復元を中心課題としていたわけではなく、ハッチョウトンボの生息地を安定的、確固たるものとして整備することが中心課題であった。また、調査途中で発見したモリアオガエルの産卵に関しても、留意することとした。それらの意味では、これら動物の生息地としては将来とも安定的に機能できるものと考えられる。 植生としては、一応、設定した植生が実現できている。一部には以前から生育していたカキラン、クサレダマの開花が見られ、植栽したトキソウ、ノハナショウブの開花もあって、来訪者には彩りをあたえる状況になりはじめている。 【今後の課題】 湿原域に関しては、ほぼ無管理の状態であると思われ、基盤地形がほぼ平坦で岩盤であること、水質・水量が良好であることなどの基本的な素質の良さが人手による手入れを不要にしている最大の要因であろう。今後も粗放的管理でよいと思われるが、将来的には土砂の流入によって地下水位が相対的に低下し、水域が狭くなることが予想される。時折人為的に掘削するなどの作業が、将来必要であろう。 岡山県自然保護センターでは、湿地を造成した直後からハッチョウトンボが増え始め、その後植生の発達にともなって生息数は減少した。今後ともこれほどの生息状態が続くものとは思われないが、まずは見事なものである。植生が密に発達した場合には、上記のような人為的な掘削などが必要になろう。 植物種の欠落に関しては、現時点でも著しい。例えば、普通に見られるキセルアザミなども欠落している。このような種の欠落に関しては、今後検討する必要があるかも知れない。現時点においてはスゲ類が広い面積発達しているが、水質からは異質であると考えられる。種の欠落がスゲの繁茂を許容しているのかも知れないと考える。 |