ポット苗による緑化 −岡山リサーチパーク−
岡山リサーチパークは平成5年度に造成を終了した工業団地である。海抜100m前後の丘陵地帯に研究所などを誘致する目的で建設された。
地質と土壌
地質的には古い時代の河川堆積物である、山砂利層である。この地域の山砂利層は半固結状態であり、礫と砂から構成されており、所々に砂と粘土を多く含む層が挟まっている。礫は風化が進行しており、乾燥すると割れることもある。砂礫質であるので全般的に透水性は高いが、場所によっては水が湧出することもある。全般的に安定しているものの、痩悪な土壌である。
周辺植生
ほとんどがアカマツ林となっている。アカマツの成長はあまり良好ではない。マツ枯れは散見される程度で、持続的なマツ枯損があるものの、比較的健全なマツ林として存続している。コナラなどの落葉広葉樹は少なく、谷沿いなどに散見される程度である。
植栽法面の状況
○盛り土法面
緩やかな傾斜を持つ凸形斜面であり、盛り土となっている地域の植生は密であり、高さ6m程度にまで成長している。植栽木はすべて常緑広葉樹であり、クスノキがもっとも成長良好であり、根本直径が10cm近くになっているものがある。その他シイ、アラカシ、シラカシなどは根本直径3〜4cm程度であり、樹高は高いものの細い。植栽時点からほとんど間引きが発生していないようであり、高い密度の状態のまま生育している。林床にはほとんど植物は生育していない。林縁にはカナメモチやトベラ、シャリンバイなどが混植されており、密な植被を形成しており、目隠し効果は高い。全体として密度が高すぎる状況ではあるが、目的は達成できていると思われる。
○切り土法面の回復状況 −灌水区−
切り土の凸台形斜面である。植生の回復が他の地域に比べ良好であり、不思議に思って林内に入ってみると、灌水施設が設置されていた。切り土の急傾斜法面では、灌水を実施しないと良好な成長が望めないことがわかる。台形の天端部にはヤマナラシが生育しており、これも灌水の効果と思われる。
○切り土法面 −灌水施設なし−
山砂利層の切り土法面に「しがら工」をほどこし、常緑広葉樹の植栽が実施されている。シイ・シラカシ・アラカシなどの生育は極不良であり、周辺のアカマツ林から供給された種子によって侵入したアカマツが良好な成長を示している。安定した法面であれば、特別な対策を実施しなくてもこのような植生が回復することを示している。
しかしながら、この反対斜面はアカマツの侵入もまばらであり、植栽木も極成長が不良である。アカマツの侵入があまり観察されない原因に関しては、斜面方位が関係していると思われるが、調べてみる必要がある。ちなみにアカマツの成長が良好な斜面は南東向き、不良な斜面は北西向きである。
○基盤材を吹き付けた法面の植生回復
山砂利層の切り土法面は劣悪であり、部分的に厚層基材を吹き付けて基盤を整備した後にポット苗が植栽されている。法面には斜面下部側に土嚢数個で土手を作り、その中に土壌をいれてポット苗を植栽したものと思われる。活着率は低く、おそらく1/3以下であると思われる。生き残ったシイやアラカシなどの成長は比較的良好であり、法面に点々とこんもりとした樹冠を形成している。樹木と樹木の間にはほとんど樹木の侵入はみられない。水分条件の良好な法面ではクズが繁茂し、植栽木にからみついて成長を抑圧している状況が観察される。このような場所ではツル植物の除去などの対策が必要であろう。
厚層基材を吹き付けて植物の生育基盤を整備することによって、常緑樹の活着には成功している。基盤材の厚さ(土壌量)が、樹木の生育量を反映していると考えれば、今後樹木の生長は鈍化するか、枯損量が増大する可能性もあろう。初期の植栽個体数から大きく減少しているために、まばらにしか樹木が生育していないが、将来はかえって自然らしい植生に回復する可能性がある。
岡山県リサーチ山砂利層という劣悪な土壌地におけるポット苗の植栽は、9年間の成果としては苦戦していると言えよう。皮肉にも、切り土法面に自然に再生したアカマツ林がもっとも成長が良好であり、周辺植生にも調和している。確実にアカマツ林へと復帰する事例の集積、方策の蓄積が必要である。厚層基材の吹き付けも良好な結果を得られていない。当地のような劣悪な土壌地では、法面の傾斜を緩やかなものにするなどの基本的な対策が必要であろう。
【関連項目:
ポット苗と実生苗の根系の違い】