ポット苗で植栽した個体の根系調査を多数実施したわけではないが、直根がなく、側根は本数が少ないが良く発達しているのが共通点であった。実際にポット苗を作り、植栽試験をやってみると、2年目までは直根が発達したので、初期成長の段階では直根が発達するが、ある程度の年月が経過すると直根が出なくなってしまうものと考えられた(3年目以降の実験は実施していない)。
庭師さんに聞いてみると、一度動かしたことのある樹木は側根が良く発達しており、移植は比較的容易であるという。大きく成長した個体では、直根が再生せず、側根ばかりになることがわかる。
考えてみれば、植物は移植されるとは思っていないはずである。種が落ちた場所で芽生え、その場所で生きるか死ぬかの戦いをやるわけであり、途中で引っこ抜かれ、他の場所に移される可能性があるようには進化してこなかったのだと思う。特に長い寿命を持ち、大きく育つ高木種にとっては、種子で侵入した直後にやるべき仕事、苗の時に発達させるべきこと、高木となったときの戦略にはそれぞれ違いがあってしかるべきである。
植物が水を吸収したり、栄養分を吸収する土壌の深さは、普通あまり深いものではない。土を掘ってみても、50cmより深い場所にはあまり根は分布していない。水分や栄養分の吸収は、地表面直下から数十cmの範囲に分布している側根が担当しており、直根は植物体を支えることが主な役目であろう。今までの経験では、谷底に生育していたコナラは約3mの深さまで、盛り土法面に生育していたアベマキが2.9mの直根を発達させていた。このような深い場所への根の発達は、地表面が乾湿の差が激しいのに比べ、少々雨が降らない期間が続いても水分を吸収できる安定な場所ではある。このような深い場所への根の発達は、木本ならではの戦略であるはずである。
ドングリから出た直根は秋からどんど下に向かって伸びていく。土の中には様々な昆虫の幼虫などが新鮮な根を待ちかまえており、食べてしまうことも多い。しかしながら幼い苗は簡単に直根を再生し、再び根を真下に向かって伸ばし始める。大量の財産をドングリの中に蓄えているからこそのなせる技である。しかし、ドングリ中の財産を消費し尽くしてしまうと、光合成で生産できたエネルギーのみで根や茎・葉を作らなくてはならない。独立採算の時代となる。植物にとって、水や栄養分の吸収は光の獲得と同様に死活問題であり、優先課題である。移植された個体は直根をのばすよりも、まずは側根を発達させて水分吸収を確保するに違いない。移植した樹木は、もはや自然の姿ではなく、地表近くにしか根を張らないものへと変質してしまっているのだと思えてくる。
ポット苗でも、1年程度ならば主根を再生する。ポット苗を植栽するのであれば、極力若い個体を植栽したい。しかし、芽生えたばかりのような小さな苗を植えるのであれば、直接ドングリを蒔く方が手軽であるし、手間もかからない。ただし、ドングリを蒔くのは秋に限られるので、それ以外の時期に植樹したいのであれば、秋にいったんポットに植えておくのも1つの対応策である。ポット苗の利点の1つは、丈が高いので雑草と競合できる点にある。植えた後、手入れをしなくてもすむわけである。このような背丈の高い苗は何年もポットで育てられており、もはや主根を再生しない。植えた後は手入れをしないということが、間違っているわけです。
ポット苗による緑化は活着率が高く、草本との競争力も高いので優秀な植栽工法の1つであることは確かである。しかしながら、土壌の安定性に貢献することを求める場合や風などが強い場所では問題が発生する可能性がある。自然に戻すことを目的とするならば、時間がかかっても種子を播種すべきである。場所と目的に応じて慎重な選択と対応が必要であろう。
【関連項目:ポット苗による緑化例
岡山リサーチパーク /
岡山県立大学 /
岡山県自然保護センター】