ポット苗による緑化−岡山県自然保護センター−



○岡山県自然保護センター−
 岡山県自然保護センターではポット苗による植生回復が広い範囲で行われた。地域の地質は花崗岩であり、急傾斜地の切り土法面では岩も露出することとなり、緑化が困難な状況も発生した。工法は、鉄筋と竹によるシガラを構築し、これに土壌をため込んでポット苗を植栽する方法であった。主要植栽樹種はシイ(ツブラジイ?)、シラカシ、アラカシが主体であり、部分的にはコナラ・ヒサカキ・ヤブムラサキなども植栽されている。

1.センター棟裏の崩壊した法面
 その中で、盛り土法面の1つが豪雨によって崩壊した。崩壊したとは言っても、表層の50cm程度がわずかにずり落ちた程度であり、樹木はそのまま生育していた。斜面の上にかぶせた布団がずり落ちたような状態であった。地山と盛り土の間に雨水が浸透し、表層土壌が滑落したものと考えられた。表層の滑落に関しては、地下への水の浸透に関する対策が不十分であったり、土壌の滑落を防止するための基盤地形の段切りを行っていないなど、盛り土の工法上の問題点もあったのであろう。
 しかしながら、植栽された樹木には、植栽後8年を経過してもまったく直根が発達しておらず、根系が表層数十cmのみに発達していたことも、表層の滑落に関係しているものと考えられる。盛り土法面は概して樹木の生育には、切り土法面よりも適しており、良好な成果を得やすいが、盛り土の量が多い場合や、傾斜が急である場合には問題があることを示している。
【根系の詳細に関しては、ここをクリック
地滑りを起こした法面地滑りを起こした法面

2.センター棟裏法面の間伐
 崩壊した法面の下段では、植栽木が成長し、外観としては良好な森林へと復帰しつつあるように見えた。しかしながら、自己間引きは全く発生せず、樹木が徒長して共倒れになる危険性が感じられ、一部の樹木を伐採した。伐採された樹木は根際から再生し、結果的に二段林となっている。林床にはススキ以外の生育はなく、播種などによる新規参入を促進する必要が感じられる。
間伐した樹林地間伐の様子

3.観察園路周辺
 観察園路周辺に関しては、切り土の幅は広いものではなく、比較的密な植生が回復しつつあるように見えるが、個々の樹木の生長は良好なものではない。北向き斜面では、林床にコケ植物の繁茂が顕著であり、適度な湿潤状態である。南向き法面では、さらに樹木の生長は不良であり、冬季には葉の黄化が目立つ。平坦地では生育は比較的良好で、部分的には樹高4mを越えている場所もある。
園路周辺の植栽園路周辺の植栽

4.アカマツ林に復帰したマサ土切り土法面
 センターの入り口付近では、溜池の堰堤修理のために土取りを行った跡地があり、大規模な崖が形成されていた。この土取り場跡地を整形し、法面植栽を実施した。土壌はマサ土であり、切り土法面である。ポット苗の植栽直後から段の平坦部にアカマツが芽生えた。植栽したシイやカシなどが当初は目だったが、その後斜面上部から一気にアカマツがカシを追い抜き、外観としては法尻を除いて一面アカマツの若齢林として再生しつつある。植栽木の多くは生残しており、アカマツ−カシ類の二段林となっている。ある見方からすれば理想的な森林であるということもできる。
 立地としてはシイやカシなどの極相構成種の生育は困難な立地であり、アカマツの侵入による植生回復を目指すべきであった。巨額な経費を投入してもしなくても、結果はアカマツ林であったわけである。
植栽後6年のマサ土切り土法面植栽後9年のマサ土切り土法面

5.植生回復が困難な切り土の露岩法面
 センターへのアクセス道路は、改修により大規模な切り土法面が発生することとなった。ポット苗の活着に成功した立地はマサ土である。上記法面との差異は、切り土法面の部分よりも上部に自然の斜面が長い距離存在していることである。切り土法面よりも上部の斜面から水分や栄養分が供給されることにより、アカマツ林へと再生する過程を取らなかったのではないかと考える。生育しているカシ類は極成長が不良であり、法尻の部分で樹高1mを越える程度。斜面部ではさらに低い段階にとどまっている。
 基盤が露出した地域では、岩盤にドリルで穴をあけ、鉄筋を挿入したような状況であり、当初から活着を疑問視していた。予想通り、植栽木の多くは枯死し、アカマツが点々と侵入している。メリケンカルカヤが草本層に繁茂しており、今後まばらなアカマツの生育する林相となると予想される。このような立地では、樹木としてはアカマツ以外による緑化は不可能であろう。
植栽後10年の切り土法面植栽後10年の切り土法面
植栽後10年の切り土露岩地法面植栽後10年の切り土露岩地法面

 岡山県自然保護センターでは、施設の趣旨にも関係し、当時先進的とされていたポット苗による常緑樹植栽を広い面積で実施した。植栽された樹種としては、シイやシラカシ・アラカシが中心であったが、センターの位置する地域では、シイやシラカシの自然分布はない。このような自然状態で分布していない種を遠隔地(九州が主)から移入し、植栽することに関しては、遺伝子の攪乱を発生させる危険性が指摘されている。また、自然状態では生育できていないものを植栽しても長期的に安定して生育できる可能性は低い。元々分布していない種には、それなりの理由があるはずであり、当地の場合は、主に乾燥が大きな要因となっている。そのような種を極限に近い劣悪な環境に植栽する事に問題があったと考える。
 極相林構成種は安定した良好な立地に生育できる。そのような条件を備えた、あるいはそれに近い条件を備えた立地では極相林構成種の植栽は成果をあげることができるが、劣悪な環境においては、その立地に対応した植生回復のあり方を採用することが必要である。個々の法面の土壌・斜面方位などに対応した、詳細な緑化計画の立案が求められる。


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