カシワバゴムノキ Ficus lyrata (クワ科 イチジク属
 最初にこの植物に出会ったのは、中華人民共和国のある大学、学長室であった。大きな葉が印象的であり、室内の明るさでも十分大きく生長できていた。その後、学内に観葉植物を導入することになり、好みの植物の希望をとった。学長室にも緑が欲しいのでいくつかの鉢物を入れたのだが、その1つがカシワバゴムノキであった。中国の学長室を思い浮かべたわけではなく、業者の「日陰でもよい」という推挙にしたがったわけであった。
 部屋に持ち込まれたとき、痛んだ葉が気になった。切り取ったように葉が欠けているのである。葉は堅くてふれ合うとカシャカシャ音がする。こんな堅い葉がどうして欠けてしまったのであろうか? 2011年は節電の夏であり、学長室でも扇風機を使った。会議中は首を振らせて広い範囲に涼風を送ったが、このカシワバゴムノキにも風が当たることになった。少し経って気がついた。擦れ合った葉が削れてしまい、穴が開いた葉もある。葉の縁が堅く、擦られた部分が削れるのであった。温室で育てていた時には葉は完全であったかもしれないが、運搬の震動で葉が削れてしまったのであろう。
 カシワバゴムノキのこのような性質には、結構悩んでいる。もちろん、新しい葉同士が擦れあうと簡単に穴が開いてしまう。新しい葉は光の方向にはほとんど無関係に、45度前後の角度で茎に付いている。全体として水を集めるように付いており、葉に落ちた雨は幹を伝って落ちることになる。葉はやがて葉柄の屈曲によって光の方向に正対するようになるが、この向きを変える過程の中で、葉が重なって擦れあう状況が発生する。どのように考えたらよいのであろうか。@重なった部分を削ってしまうことによって、光の当たらない部分をなくす。A風が吹かない場所(環境)に生育する。
 カシワバゴムノキは熱帯アフリカが原産とのこと。熱帯の高木林の中で亜高木あるいは低木として生育しているのであろう。耐陰性が高いのも納得。風が吹く環境ではないのかもしれないし、結果的にモンステラのように穴あきの葉になるシステムなのかもしれない。
 枝からは気根が出るので簡単に取り木や挿し木ができる。葉は長さ40cm、幅30cmになる。茎はまっすぐ上に伸びる傾向が高く、簡単に天井についてしまう。英語名は fiddle leaf fig バイオリン型葉のイチジクということになる。小生はバイオリンというよりも、軍配をイメージしてしまった。
 室内でもよく育つという植木屋さんの言葉通り、ぐんぐん伸びて天井にくっ付いてしまった。それでも伸びることを止めようとしないので、茎の途中から発根させ、取り木をすることにした。幹の途中にミズゴケを巻いておくと、簡単に発根してくる。適当な時期に切り離して新しい鉢に植え込んだが、今年も天井についてしまった。
カシワバゴムノキ Ficus lyrata
カシワバゴムノキ Ficus lyrata の葉葉の裏面拡大(無毛)
新しい葉の托葉幹から出た気根
擦れあって削れた葉擦れあって削れた葉
茎を環状剥皮した後紙コップにミズゴケを入れて給水やがて見事に発根
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