ヌマガヤ Moliniopsis japonica (イネ科 ヌマガヤ属)
 ヌマガヤは北海道から九州、朝鮮にも分布する多年草。亜高山帯の湿原や低地の貧栄養性湿地に生育する。亜高山帯などの高層湿原に生育する場合には草丈も20〜30cmであるが、温暖な低湿地に生育する場合には高さ1mを越えるほど大きくなり、とても同じ種とは思えないほどである。花茎でスダレを作ったとの話もあるほどであり、細くて美しいスダレができるそうである。8月〜10月にかけて花穂を形成する。高層湿原に生育する場合には、花穂は散開しないが、低地の湿原では大きく散開した花序を形成する。
 ヌマガヤは中間湿原を代表する種の一つであり、中部以北では湿原に普通に生育する。しかし、温暖な地域においては分布は隔離的であり、隣り合わせの湿原でも片方には生育しているが、もう一方には分布しない場合もある。栽培してみると生長はごく遅く、なかなか優勢な状況にまで生育しない。このような生長の遅さが点々とした分布の一つの原因であろう。ヌマガヤの生育している湿地は、それなりの歴史を持っていることになる。全草無毛であり、典型的な湿原に生育しており、無毛で端正なイネ科植物があれば、ヌマガヤを疑ってみたい。
 ヌマガヤの生育しない湿原では、ヌマガヤの生態的地位(ニッチェ)を他の植物が占めることになるが、低地の湿地ではトダシバがその役割を演じていることがある。ヨーロッパの中間湿原では、よく似た Molonia 属の植物が同じ役割を演じており、日本のヌマガヤをこの属に含める意見もある。
温暖な地域に生育するヌマガヤの穂温暖な地域に生育するヌマガヤの葉
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