ゼニゴケ Marchantia polymorpha L. (ゼニゴケ科 ゼニゴケ属)
ゼニゴケは人家の近くにみられるコケであり、茎と葉の区別がなく、表裏の区別がある苔類である。家の北側など、やや湿った場所に見られることが多い。教科書には、苔類の代表の一つとして掲載されていることが多く、名前は良く知られている。
裏側から仮根を出して地面にしっかりと張り付いており、除去しにくいので嫌われることもある。
下の写真は、植物体であり、二股状に分かれて広がる状況がわかる。所々に写っている丸い構造物は「杯状体」である。この杯状体からは両側がくぼんだ円盤状の無性芽が形成され、周辺にばらまかれて無性的に繁殖する。
ゼニゴケも条件がよければ有性生殖を行う。雌雄異株である。上の写真は精子を形成する雄器であり、葉状体の先端から長い柄を出し、その上に傘をひろげた構造となっている。この傘での中に精子を形成し、降雨などによって雄器床の上面が濡れると精子が出てくることになる。
下の写真は雌株が形成した雌器である。俗に「破れ傘」と呼ばれ、この傘の骨の下側に卵を形成する造卵器がある。精子を含むしぶきが到達したり、精子の運動によって受精が行われ、下向きに胞子を形成する胞子体(2n)が形成され、やがて胞子をばらまくことになる。
コケ植物の染色体は半数体のnであり、2nの高等植物よりも、より性染色体の存在による影響が大きい。性染色体の影響を具体的に、n=5の植物として考えてみよう。性の決定様式がXY型であるとする。シダ植物や裸子植物・被子植物などの維管束植物は、2nの染色体をもつ。これを染色体対であらわせば、♀:2n=8+XX ♂:2n=8+XY となる。 雄と雌では、9本の染色体が共通であり、1本のみが異なっている。通常われわれが見ているコケは、半数の染色体対(n)をもつ世代である。したがって ♀:n=4+X ♂:n=4+Y であり、雄雌に共通な染色体は4本である。雄はX染色体をもっていないので、両者の違いはより大きいことになる。
このような雄雌の遺伝子的な違いは、ゼニゴケの雄と雌のバイタリティの違いとなってあらわれている。雄は雌よりも弱いのである。都会になるほど雄株は少なくなり、無性芽による繁殖に頼るようになる。市街地近くの住宅で観察できるゼニゴケは、雌ばかりである可能性が高い。
ゼニゴケなどのコケ植物は草をターゲットにした除草剤が効かない。このために、除草剤を長期間にわたって散布した場所では、このような一面のゼニゴケ群落が形成されたりする。この写真はミニトマトを栽培しているビニールハウスの横である。気味が悪いほどの繁茂状況である。