ベニシダ Dryopteris erythrosora (オシダ科 オシダ属)



 ベニシダは本州・四国・九州の森林や路傍などに極普通に生育する常緑のシダ植物。葉の長さは30〜70cmと変異が大きく、小さいものからとても新聞紙に挟めないほど大きなものもある。春の新芽は全体的に紅色を帯びる(和名の由来)。若いときには葉の裏の胞子嚢群もあざやかな紅紫色であり、この点もベニシダと呼ぶにふさわしい。ベニシダは無融合生殖を行うので、多様な系統の種が生存しやすく、変異が大きく、類似した種もたくさんあることから、普通種でありながら同定が困難な種でもある。
春のベニシダ
葉の裏面の一部胞子嚢群(ソーラス)
 ベニシダの染色体は3n(n=123)であり、胞子母細胞が形成される際に核が分裂しても細胞が分裂しない過程があり、染色体数が倍加した胞子母細胞が形成される。この胞子母細胞が減数分裂を行って胞子が形成される。従って、胞子は胞子体と同じ数の染色体数を持っており、前葉体(配偶体)が形成されても卵子や精子が形成されず、前葉体の一部から胞子体が形成される。このような生殖形態を精子と卵子の受精が行われないので、無融合生殖という。
 このような無融合生殖を行うことにより、別の前葉体から精子を受け取るというやっかいな過程が不要となり、飛び離れた場所に1個体だけ前葉体が芽生えても胞子体を形成することが可能となる。このような繁殖戦略は、不安定な立地や小規模な生育立地への侵入・生育に適しており、ベニシダが路傍などにも生育が可能であることと関連がある。同様な無融合生殖は帰化タンポポなどの例でも知られている。このような生殖形態は、タンポポの例でもわかるように、人為的攪乱と関連があると考えられており、ベニシダも人間活動が活発になり、人里周辺域で攪乱が発生したことによって分布を広げた種であると考えられている。


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