香川県豊島の植生 〔地質・地形と植生の関わりについて〕 ○森定 伸1・山崎 通敬2・能美洋介2・波田善夫2 (1株式会社ウエスコ、2岡山理科大学・総合情報学部・生物地球システム学科) |
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はじめに 近年、自然環境の基礎情報として、植生図の作成・利用の機会が増加している。本研究においては、比較的狭い地域において地形図・地質図と植生の発達状況に関して詳細な解析を行い,植生の発達要因を明らかにすることを試みた。これらからえられた成果は類似した特性を持つ地域における植生図化に貢献できると考えている。なお、本研究に使用した2000年度版現存植生図は、現在環境省が実施中の現存植生図改訂作業成果の一部である(未発表)。 |
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調査地 調査地である香川県の豊島は、瀬戸内海の東部に位置する、年平均気温16℃、年平均降水量1,200o以下の地域である。地質は花崗岩を基岩に、土庄層群(堆積層)、塩基性凝灰角礫岩がほぼ水平に層状に分布し、島中央部の壇山(339m)山頂には、讃岐岩質安山岩がキャップロックを形成する。全島がアカマツ、コナラ、アベマキの生育する代償植生に広く覆われ、自然植生はカナメモチ−コジイ群集、トベラ−ウバメガシ群集がわずかに残されるのみである |
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方 法 作成した地図情報を重ね合わせ、関係解析を行った。 植生図:1982年に環境庁が発行した縮尺1/50,000と、2000年度に現地調査(植生調査結果から凡例を設定)と空中写真の判読により作成した縮尺1/25,000の2種類。 地質図:現地調査により作成した縮尺1/5,000。 DEM(地形図):1/5,000地形図を用いてStripe法(能美ほか.2002)により作成。メッシュ間隔は20m(図1)。 |
図1 DEMによる立体地形図 |
結果・考察 @ 20年間における植生の変化 2枚の植生図(1982年版、2000年版)から、20年間で全島ではアカマツ群落が約半分に減少、コナラ群落が約5倍に増加し、植生遷移の進行が確認された。地質別では、1982年にアカマツ群落であった場所のうち、花崗岩地域は約8割がアカマツ群落のままであったが、塩基性凝灰角礫岩地域は約8割がコナラ群落へと変化し、地質により変化の状況が異なっていた。 A 地質・地形と植生の関わり 地質別に地形(傾斜角度)と植生の分布割合について整理した(図2)。花崗岩地域では全体にアカマツ群落とネズ−アカマツ群落が広がり、特に急傾斜地(40度以上)ではネズ−アカマツ群落が卓越する。讃岐岩質安山岩地域ではネズ−アカマツ群落は見られず、緩傾斜地にアカマツ群落が、急傾斜地にコナラ群落がより多く分布する。また、同様の花崗岩地域でも、山頂に讃岐岩質安山岩が分布する山塊の場合、花崗岩のみの山塊に比較して、コナラ群落の分布割合が増加する。これは、上部の地質から供給される崖垂が、下部の地質に影響しているためと考えられる(キャップロック効果)。 |
図2 傾斜角度別植生分布割合 (上:全花崗岩地域、下:讃岐岩質安山岩地域) |
まとめ 地質により分布する植生の種類とその分布量が異なり、同じ植生でも地質が異なると分布(成立)する地形が異なっていた。またキャップロックの存在も植生の発達に大きく影響していた。植生図の作成にあたっては海抜や気候要因のみならず、地形・地質・層序などについて解析することにより、より正確な植生図の作成が可能となると考える。 |
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2002年10月19日(筑波大学) 植生学会第7回大会 講演要旨集、9p. |