湿生植物の種子発芽特性
○尾崎聡子1・波田善夫2(1岡山理科大・総情院、2岡山理科大・総情・生地)
S. Ozaki&Y. Hada : Experimental study on seed germination properties of hygrophyte
1. はじめに
湿原の復元・創造において、既存の湿原からの植物採取は採取地の破壊をともなう。したがって播種による植生回復が自然保護上望ましい。しかし現時点では湿原や沼沢生植物の種子発芽特性に関する知見は少ない。水草の種子発芽では酸素分圧の影響が大きいことが知られている。本研究では湿生植物を中心に、酸素分圧による発芽能力の違いを検証し、湿原の保全や水辺の環境作りへの利用のための知見を得ようとした。
2. 実験方法
低温処理後、温度を25℃、照度を蛍光灯5000lx、1日当たり12時間照射に設定したインキュベーター内で発芽実験を行った。酸素環境に関しては、溶存酸素量の異なる次の4条件を設定した。@8〜9mg/l A3〜8mg/l B5〜7mg/l C1〜3mg/l
3. 結果と考察
酸素分圧と発芽特性の関係から、湿生植物は次の3型に分けられた。
(1)通常の酸素環境で発芽率が高かった種(ヒメクグ、ミゾソバ)
土壌中の種子は、土が掘り返され、酸素が多い環境になると発芽する。畑地や田の畦など比較的乾燥した空気を多く含む土壌環境で発芽が促進されると考えられる。
(2)低酸素環境で発芽率が高かったが、通常の酸素環境でも発芽した種(タマガヤツリ、ヨシ、ツルヨシ、ヤナギタデ、ビッチュウフウロ)
休耕田のような湿った土の中や酸素濃度が変動する川の水際などで発芽が促進される。比較的乾燥した場所での発芽も可能で、湿原の場合は地表面で発芽すると考えられる。
(3)低酸素環境で発芽率が高く、通常の酸素環境では発芽しなかった種(ガマ、アゼガヤ、コゴメガヤツリ、ホソアオゲイトウ)
水底や水で飽和された土壌中などの酸素分圧が低い環境や酸素分圧が変動する環境で発芽が促進される。休耕田や浅い池などの表水がある場所に適応しており、ガマやコゴメガヤツリは水中でも発芽する。
まとめと今後の課題:
それぞれの種の発芽率は酸素分圧によって異なっていることが明らかになった。実際に生育している場所と異なる環境で発芽が見られた種があり、それぞれの発芽環境に合わせて播種する必要がある。今回の実験で明らかな結果が出たのは42種中11種で、湿原植物の多くは発芽が見られなかった。今後、湿生植物の発芽が見られなかった条件を解明し、もっと多くの種の発芽特性を解明したい。
日本生態学会中国四国地区第46回大会講演要旨、p.12.