溜池の法面の植生
-特にツリガネニンジンの生育環境について-
1.はじめに
ツリガネニンジン Adenophora triphylla は原野に普通な多年草であり、秋の草原を彩る植物の1つである。溜池や河川の法面には、このような美しい植物が生育する場所とそうでない場所がある。このような違いは、物理的な環境だけではなく、刈取の回数や時期などの人為的撹乱も影響を与えていると予想された。この観点から、刈取草原の代表としてツリガネニンジンに着目し、溜池・河川の法面を植生調査し地質・斜面方位・人為的撹乱との観点から解析をおこなった。
2.解析方法
岡山県北部を中心とした溜池(19ヶ所)と旭川中原橋付近(2ヵ所)計21ヶ所の法面を、2m×2mの方形区でBraun-Blanquet法に基づいて植生調査を行った(スタンド数252)。調査資料を植物社会学表操作プログラムVEGET(波田・豊原、1990)を用いて表操作し群落区分を行った。
3.結果と考察
斜面方位:斜面方位を比較すると、出現頻度には大きな差はないが、北側では平均被度17%、南側は9.6%であり、北側でよく繁茂する。クズなどが同じ場所に生育する事が多く見られる事から、比較的水分条件の良好な土壌が生育に適していると思われる。
刈り取り回数:年間の刈取回数を比較(表参照)すると、2回刈取が実施されている溜池法面では出現頻度が少なく、河川の堤防法面では全く生育が確認できなかった。このことから、年2回以上の刈取が実施される場所ではツリガネニンジンは生育が困難であることがわかった。
野焼き:ツリガネニンジンは野焼きが行われている所によく出現している。野焼きは刈取った草の処理・害虫駆除の目的で実施されている。野焼きによる表層土壌の高温化が一年生草本等の根が浅い所にある植物には大きな損害となるが、太い塊根を持つツリガネニンジンには影響がほとんどなく、逆に競争相手が激減した事が高い出現数につながったことなどが考えられる。また灰に含まれるカリウムなどが肥料となって成長が促進された可能性もある。
表:ツリガネニンジンの出現頻度と環境要因
場所 | 溜 池 | 旭 川 |
スタンド数 | 74 | 65 | 82 | 31 |
刈取回数 | 年1回 | 年2回 |
野焼き | あり | なし |
出現数(%) | 48(64.9%) | 2(3.1%) | 16(19.5%) | 0 |
4.まとめ
ツリガネニンジンは太い塊根を持ち、地下部に栄養物質を蓄えることによって、刈取・野焼きなどの人為的撹乱に適応していると考えられる。また楕円形の根出葉を備え、冬はこの根出葉で越冬し、刈り取り後にいち早く根出葉を再生する事でその場所で優占する。しかし他の植物との生存競争には弱く、相対的な植生高が高くなったり、人為的撹乱が行われなくなったりすると、やがてその場所での優占種が交代し、個体数が減少する。ツリガネニンジンはある程度の人為管理下に適応した植物であることが判明した。