岡山県南部における森林植生
−山陽町馬屋の現存植生−
1. はじめに
岡山市の北東に隣接する山陽町馬屋地域には夏緑広葉樹林とアカマツ林が明瞭な境界を持って発達している地域がある。この明瞭な植生分布の原因は地質・土壌・地形などの条件が異なっているからであると考えた。当地において、植生調査とともに土壌調査・地形解析を行ったので報告する。
2. 調査地と調査方法
岡山県赤磐郡山陽町馬屋地域の南〜南東斜面において、76地点でBraun-Blanquet法(1964)を用い植生調査を行った。植生調査資料を植物社会学表操作プログラムVEGET(波田・豊原、1990)を用いて群落区分を行い、植生図を作成した。さらに長谷川式土壌貫入計を用いて土壌硬度測定を各スタンドで3ヶ所測定した。1回の測定で連続して50回打撃し、1打毎に土壌深度を読み取った。また、表層土壌を採取し、土壌三相を測定した。地形図から各調査地点の集水面積をもとめた。1/2500の地形図から5mメッシュのDEMを作成した。
3. 結果と考察
○植生
表操作の結果、A.アカマツ群落、B.コナラ群落、C.アラカシ群落、D.ノグルミ群落の植生群落に区分できた。アカマツ群落はさらに3つの下位単位に区分できた。
- A.アカマツ群落: アカマツ(T1)やネズミサシ(T2)が生育する群落である。この群落は最も出現種数が少なく、尾根に良く見られるa.アカマツ群、aよりも土壌条件が良く松枯れが進行したb.ウスノキ群、斜面下部に多く分布しているcコシダ群の3植分に下位区分される。
- B.コナラ群落: コナラ(T1)が繁茂し、コウヤボウキ(H)・ヤブムラサキ(S)等に特徴づけられ、マツの倒木も見られることから松枯れ後に発達した群落であると考えられる。
- C.アラカシ群落: アラカシ(T1)・サカキ(S)の常緑樹が発達しており、全体的に暗く、この地域で最も遷移が進んでいる群落である。
- D.ノグルミ群落: ノグルミ(T1)や、オクマワラビ・ハカタシダ等のシダ植物が多く生育しており、傾斜の急な場所に発達する群落である。
○集水面積と土壌
- 土壌の物理性は群落によって大きな差は無かった。したがって、植生の違いは地形的な要因であると考えられた。
- 図1は植物の根が侵入可能な土壌の体積を表しており、この値が大きいほど植物が生育しやすく、遷移が進みやすい。
- アカマツ群落では植生データからA-aアカマツ群からA-bウスノキ群へと遷移が進んでいると判断でき、それに比例して土壌の体積も増加している。またA-cコシダ群の体積が大きいのは、斜面下部に多く分布していることやコシダの落葉層が地表部分を覆っていることが原因であると考えられる。
- 集水面積はアカマツ群落からアラカシ群落に向かって次第に増加しており、植生の違いは土壌の体積とともに集水面積が大きく関係していることがわかった。Dのノグルミ群落は、日照の制限などが関係していると考えられる。