湿生植物の種子発芽特性
I98G015 尾崎 聡子 
1. はじめに
 湿原の復元や水辺で緑地の造成などを行う際に、植物を移植すると植生の回復は容易であるが、採取地
の自然を破壊する要素を持っている。したがって、移植よりも播種の方が自然保護上望ましい。しかし現時点では湿原や沼沢生植物の種子の発芽特性はあまり知られていない。本研究では水田や池、沼などに生育するカヤツリグサ科、イネ科植物、湿原に特有な植物を中心に、酸素分圧による発芽能力の違いを検証し、湿原の保全や水辺の環境作りへの利用のための知見を得ようとした。本報告では、結果が出ている沼沢生植物について報告する。

2. 実験方法
 採取した種を低温処理した後、インキュベーター内で発芽実験を行った。温度を25℃、照度を蛍光灯5000lx、1日当たり12時間照射に設定した。1処理につき100粒の種子を用いた。酸素環境に関しては、次の4条件を設定した。溶存酸素量に関しては、現在計測中である(括弧内は溶存酸素量値)。
<酸素を多く含む環境>
@ 9pプラスチックシャーレにろ紙を2枚敷いたものを発芽床とした。(8〜9mg/l)
<酸素をあまり含まない環境>
A 沸騰させた蒸留水を入れた三角フラスコの中に種を沈めた。(5〜7mg/l)
B密閉したプラスチックケース内に脱酸素材(カイロ)を貼り付け、種を置床したシャーレを入れた。(3〜6mg/l)
C 大きさの異なるシャーレを同じ向きに2枚重ね、その間にろ紙を敷き、種を播いた。(1〜3mg/l)

3. 結果と考察    
(1)酸素を多く含む環境で発芽率が高かった種(ヒメクグなど)
畑地や田の畦など比較的乾燥した酸素を多く含む土壌で発芽が促進される。田などの土壌中に存在している種子は、土が掘り返され、酸素が充分供給できるようになって発芽すると考えられる。
(2)酸素が少ない環境で発芽率が高く、酸素が多い環境では発芽しなかった種(ガマ、アゼガヤ、コゴメガヤツリなど)
水田や沼、池の水底などのような酸素が不足した所で、発芽が促進されると考えられる。
(3)酸素が少ない環境で発芽率が高かったが、酸素が多い環境でも発芽した種(タマガヤツリ、ヨシ、ツルヨシなど) 
休耕田のような湿った土の中、川や池の水際などに生育する植物で、水中で高い発芽率を示すが、水が引いた状態でもある程度発芽し、環境の変動に適応できる種と考えられる。
まとめ:それぞれの種の発芽率は酸素分圧によって異なり、実際の生育環境と比較してみても、よく一致していることが明らかになった。水中で発芽率がよかった植物の種子は土の上に播いても効率が悪く、それぞれの発芽環境に合わせて播種するべきである。

4. 今後の課題
湿原植物の発芽は現在観察中であるが、湿原植物と田・池・沼などに生える植物の発芽特性を比較し、それぞれの植物の発芽に適した環境を解明したい。また今回の実験では発芽が見られなかった種がある。これらについては、その原因を解明することが必要である。




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