那岐山(なぎせん)  1255m
    岡山県勝田郡奈義町(北斜面は鳥取県八頭郡智頭町)

 2005年の4月30日、30年ぶりであろうか、那岐山に登ってみた。植林が多く、自然林はほとんど残っていないという昔のかすかな印象は、やは正しかった。しかし、台風23号の影響は大変なもので、甚大な被害を与えていた。季節的に少し早かったために、十分な観察はできなかったが、記録として掲載しておこう。
 地質は、登山口付近から斜面にかけては流紋岩、それより上部は安山岩ということになっている。
 駐車場の周囲は、いきなり台風の被害を受けたスギ植林地であった。被害木は伐採されているので、被害直後は更に凄惨な状況であったに違いない。
 根返りも見られるが、中ほどから折れているものも多い。伐採されたものの中には、折れたものが多いようである。

植林地の被害状況は次ページ
蛇淵の滝

 登山ルートのほとんどは谷を通らない。登山口付近のこの滝の部分のみで谷の植物を見ることができる。
 植林地が大きな被害を受けているので、登山道は日当たりが良くなり、見晴らしも良くなっている。
 中腹以上の高さまで植林が広く行われており、雑木林は少ない。
 中腹に桧皮(ひわだ)を採取したヒノキ林があった。出雲大社のように、神社ではヒノキの樹皮で屋根を葺く場合がある。このような伝統建築の保存には大きく育ったヒノキが必要なのであるが、今回の台風でかなりのヒノキ大径木が被害を受けてしまった。桧皮採取には枝打ちをした手入れの良いヒノキが必要なのであるが、放置されているヒノキの林はあるものの、このような手入れの行き届いた林は少なく、残念なことである。
 ちなみに、切り株からは、75の年輪を数えることができた。
 海抜が高くなるにつれ、植林の間に落葉広葉樹が混ざった森林が見えてくる。植林の側から見れば失敗かもしれないが、なかなか美しい景観となっている。
 高海抜地における植林の困難さを示しているのだが、落葉広葉樹林中に点在するスギやヒノキからなる景観は、これでよいのではないかと思えてくる。
 海抜800m前後の地域も、斜面の方向によっては台風の被害が大きい。
 海抜1000m付近では、植林の成績が不良である。ヒノキが植栽されているのであるが、成長が不良であるために落葉広葉樹に負けたり、雪崩などの被害もあったのであろう。
 海抜1000付近の稜線は、岡山県側となる南側にヒノキの植林が、鳥取県側の北斜面は落葉広葉樹の二次林となっている。
 台風による強風が吹き荒れたのではないかと思われる尾根筋であるが、被害はほとんどない。特に落葉広葉樹の被害は軽微であった。
 尾根筋の落葉広葉樹林はミズナラ、ウリハダカエデなどの小・中径木からなる二次林であり、冬芽からの判断では、ノリウツギが目立った。ブナなどの再生はほとんどない。
 古くから強度な伐採が行われてきたものと思われる。
 植林されたヒノキの成長は非常に不良であり、直径20cmほどの個体の年輪は80以上を数えることができる。疑年輪も多数あるようで、植林されてから70〜80年というのが実際のところであろう。
 倒木は少なく、根返りは見られなかった。しかし、境界部の切り株では、材の組織が破壊されているのがわかる(画像の下部)。

 海抜1000m付近では、到底採算に合うような成長は望めず、材も使いにくい物ではなかろうかと思われる。
  1200m付近の尾根筋はササ草原や低木群落となっている。緩やかな起伏の尾根が連なっており、見通しがよければ、北に日本海が、南に日本原が見えるはずであるが、今回は残念。
 よくも植えたものだ・・・・

 1000mを超える尾根までヒノキの植林が行われている。
 多くの脊梁山地でそうであるように、南側の斜面は草地となっており、北斜面は低木群落となっている。
 ピークの様子:左側は南斜面
 登山道沿いでは、アカモノなどの矮生低木のほか、サラサドウダン、ホツツジ、ノリウツギなどの低木が目立つ。
 北向き斜面は落葉広葉樹の再生が顕著

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