結果と考察


A4.降水量に制限される種 シリブカガシ・タブノキ・スダジイ等
 分布型A1の中の狭い範囲に分布し,WI90〜120℃の地域に分布の極大を持つとともに,降水量の少ない地域で欠落する傾向が高いことを特徴としている。これらの種にはヤブツバキクラスの主要な高木層構成種が含まれており,温暖少雨を特徴とする瀬戸内気候の地域における極相林の考察にとって重要である。
クロバイ
 代表的な分布地としては,鷲羽山からやや内陸に入った鴨ケ辻山系や,県南東部備前方面等がある。この地域一帯は,温暖であるものの,山がちな地形が連なるため,沿岸部としては比較的降水量に恵まれた地域となっている。県中部にも分布が点在するが,これらの地域の降水量は,同じ程度か,逆に少ないぐらいである。
 Toyohara(1984)によると,クロバイは広島県の宮島に発達するアカマツ−クロバイ群集の識別種となっている。解析に使用した地域フローラ資料では島嶼部の分布は確認されなかったが,岡山県南東部日生町沖にある鹿久居島では,山頂付近に分布の報告がある(岡山県,1996)。当地のメッシュ気候値は,WI121.5℃,海抜64m,年降水量1263oとなっており,現時点で示される分布傾向は大きくは変わらない。クロバイによる群落は,もともと降水量の多い太平洋側で多く,瀬戸内海周辺や日本海側では少ないことが指摘されている(沼田ほか,1996)。その瀬戸内海に面する岡山県沿岸南部においても,比較的降水量に恵まれた地域を分布の拠点としていることから,島嶼部に分布が見られはするものの,特に沿岸地を分布の拠点とするものではないと考えられる。
シリブカガシ(図11)
 岡山県では二次林の遷移過程の中でも,照葉樹林化の初期段階で出現してくることが多く,確認されているものは単独個体や単調な組成による優占林である場合が多い。気候的に見た本種群の分布範囲は,アラカシを含む分布型A1の最も出現頻度の高い区間と重複しているが,地域的にはアラカシが優勢になりにくい地形条件等の要因により住み分けているものと考えられる。


推定主要分布地の条件:海抜50〜350m,年間降水量1,230〜1,550o,WI100〜120℃
図11.シリブカガシ Lithocarpus glabra
ツブラジイ(図12)
 分布型A1ほど乾燥に強くないため,かなり限定された立地条件の地域に分布しているものと考えられる。


推定主要分布地の条件:海抜111〜243m,年間降水量1,254〜1502o,WI108〜117℃
図12.ツブラジイ Castanopsis cuspidata
リンボク
 本分布型の中では最も温暖な地域に分布の極大を持っている。海抜100〜300mの区間にわずかな分布の極大が見られ,年降水量1400〜1800oの狭い範囲に分布している。県中部を分布の拠点としているものの,吉備高原面にはあまり見られず,中北部の低地・盆地が主な分布地と考えられる。また,比較的降水量に恵まれている南東部地域においても分布が見られる。
ツクバネガシ(図13)
 WI100〜110℃,海抜300〜400m,年降水量1400〜1600oの地域で出現頻度が高い。県下では主に中部に分布しているが,吉備高原面のなかでも比較的に起伏に富んだ山地帯に分布しているように思われる。分布の南限は年降水量の,北限は気温条件の極大分布を示したあとに現れている。Toyohara(1984)は本種とアカガシを,アカマツ−ウラジロガシ群集の区分種として同様に扱っているが,岡山県内におけるツクバネガシの分布はアカガシに比較するとかなり限定的である。


推定主要分布地の条件:海抜120〜380m,年間降水量1,420〜1,610o,WI00〜110℃
図13.ツクバネガシ Quercus sessilifolia
チトセカズラ・シロバナウンゼンツツジ
 主に県中部吉備高原に分布している。両種の生育立地そのものは異なっているが,気温・降水量の面から見ると,分布地域の大部分は重複している。
タブノキ(図14)
 WI100〜110℃,年降水量1400〜1600oの範囲で出現頻度が高い点では,ツクバネガシと似ているが,海抜では本種群の中では最も高所にあたる400〜500mの範囲に分布の極大がある。


推定主要分布地の条件:海抜250〜500m,年間降水量1,420〜1,510o,WI100〜110℃
図14.タブノキ Machilus thunbergii
スダジイ(図15)
 降水量に対する分布傾向がタブノキとよく似ているが,WIでは90〜100℃にわずかな分布の極大があり,タブノキよりも耐寒性があるものと考えられる。スダジイは海抜400m前後の吉備高原面を主な分布地としながら,比較的低地まで分布が広がっている。


推定主要分布地の条件:海抜120〜450m,年間降水量1,410〜1,600o,WI95〜110℃
図15.スダジイ Castanopsis cuspidata
[最初のページ][A3.低海抜地に分布する種][A5.二次林性の種]


岡山県における植物分布要因の解析
出典:難波靖司・波田善夫,1997.岡山県自然保護センター研究報告(5):15−41.
最終更新日:2000/07/07