結果と考察
A3.低海抜地に分布する種 クスノキ・モッコク・ナナミノキ等
本分布型の種は,イタビカズラを除いて,WI120℃以上に分布の極大を持ち,海抜200m未満の地域に50〜60%の分布が見られる。沿岸低地に分布の極大を持つものの,やや内陸部の低地にまで広く分布することを特徴としている。
クスノキ(図9)
県下各地の社寺や公園,街路によく植栽される樹種である。県下の古樹・老樹等の報告資料(岡山県,1975,'76,'92,岡山県緑化推進委員会,1987)によると,該当する20個体の内,倉敷市7,岡山市3,井原市2,笠岡市1,寄島町2個体と,大部分が県南に集中している。一方,総社市,吉井町,柵原町,賀陽町,鏡野町においても各1個体ずつ報告されていることから,南部を分布の拠点としながら,県中北部においても生育は可能な樹種と考えられる。比較的耐寒性もあるが,WI120℃以上の地域で約65%,年降水量1200o未満の地域で約50%の極大分布傾向から,分布型A2に近い特性を持っていると考えられる。
推定主要分布地の条件:海抜10〜200m,年間降水量1,440o未満,WI100℃以上
図9.クスノキ Cinnamomum camphora
ヤツデ・マンリョウ・モッコク・シャシャンボ・カナメモチ・カクレミノ
これらの種は記載した順で,WI120℃以上の地域で分布の極大を示すものから,WI110℃以上の少し広い範囲で極大を示すものへと推移している。海抜,年降水量における出現傾向も比較的似た様子で推移しており,各々の環境要因の相互の相関が高いことがうかがえる。
ナナミノキ(図10)
優占種として林冠を形成しつつある林分が沿岸域,特に堆積岩地域を中心として広く見られ,注目される。
推定主要分布地の条件:海抜10〜250m,年間降水量1,200〜1,650o,WI105℃以上
図10.ナナミノキ Ilex chinensis
イタビカズラ
分布範囲に関しては本分布型に該当するが,分布傾向は他種と大きく異なっている。本種は堆積岩地域に生育することが多く,地質分布の不均質さが大きく影響しているものと思われる。
岡山県における植物分布要因の解析
出典:難波靖司・波田善夫,1997.岡山県自然保護センター研究報告(5):15−41.
最終更新日:2000/07/07