B2.特異な分布を示す種 イヌブナ等
WI・降水量等において,局在する傾向がある等,他の種と分布傾向が異なる種をまとめた。これらの種の分布は,土地的条件に強く影響を受けているものと考えられる。
ユクノキ
主に岡山県北西部に分布が見られる。解析に使用した地域フローラ資料には含まれていないが,岡山県のほぼ中央に位置する加茂川町においてもユクノキ林(豊原・波田,1989)の報告がある。ここのメッシュ気候値はWI108.7℃,海抜285(110〜460)m,年降水量1490oである。気候或いは降水量の面から見ると,ここでのユクノキの分布は岡山県における南限にあたものの,標高差が大きく,起伏に富んだ地域である。ユクノキは渓谷林構成種であることから,水分要求量は大きいものの,その分布は,降水量のみに左右されるわけではなく,地形的な制約によるところが大きいものと考えられる。
イヌブナ(図20)
中間温帯を含むWI80〜90℃の地域に分布の極大を持っている。また海抜600〜800m,年降水量2000o以上の地域に分布の極大を持っている。


図20.イヌブナ Fagus japonica
カシワ
県下における自然性の高い生育地としては,脊梁部地域における稜線等の風障地が挙げられる。一方,火災にも比較的強いため,県北の準平原面の牧草地周辺でもよく見られる。岡山県においては,本来の自生地よりも,恩原湖周辺に見られるような二次林の方が,より一般的である。
バイカツツジ・ホンシャクナゲ
両種は冷温帯域の南縁にあたる中国脊梁の麓から中間温帯にかけて分布するツツジ科の低木である。バイカツツジは基本的には陽生低木で,開けた谷間や渓流に沿う斜面下部によく見られる。ホンシャクナゲは,蛇行する峡谷の谷間に見られる一方で,比較的間口の広い谷であっても,北向きの断崖絶壁や,渓流に面した急斜面で見られる。ホンシャクナゲに関しては,地形要素や,それが要因となって維持される空中湿度等の環境要因が,大きな生育基盤となっており,ユクノキと同様に,気温・降水量のみで分布が制限されていないと考えられる。
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