日本生態学会第48回大会 自由集会M2 周防灘と長島(上関原子力発電所建設予定地)の生物多様性 −中国電力による追加調査の結果をふまえて− 2001年3月27日(火)17:30−20:05 企画・司会・まとめ 安渓遊地(山口県大) 参加者数:55名 |
1.生態学会の要望書とそのアフターケアをめぐって 生態学会第47回大会で決議された「上関原子力発電所予定地の自然の保護についての要望」のアフターケア委員会委員長、鈴木和雄氏(山口県大)による発表。 中国電力が作成し、通産省に提出した「中間報告書」を詳細に検討した結果、学生の答案で言えば、不可としかいえないレベルのものであることを、具体例を上げて説明した。詳細については、2000年11月にアフターケア委員会が作成した「中間報告についての見解」を参照されたい。ここでは、そのまとめの一部を転記しておく。 |
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(1)旧法のアセスにとどまっている アセス新法の観点に立った調査、評価ではなかったため、生態系評価を行っていないなどの多くの重要な問題を残すこととなった。 (2)不完全で低レベルの報告書 環境評価をきちんと行えるような科学的調査でない点が多い。調査方法、調査の対象とすべき希少種の取り上げ方、生物種のリストがないこと、種の扱いの不正確さ、評価の仕方そのものなどに問題が多く見られる。また、数量的な把握がなく、海洋環境について取り上げていない。秋期調査の結果を待たずにまとめを急いだ不完全な報告である。 (3)温排水の影響を無視している 温排水が与える生態系への影響評価は、生態学会が特に要望したところであったが、実施されていないばかりか、温排水の海産生物への科学的評価そのものが欠落している。 (4)素人の作文の域を出ない 「専門家の立場からの指導、助言を得た」としているが、本当に専門家がかかわったのかどうか疑問のある内容が多い。 |
2.中国四国地区会のこの1年の取り組み 日本生態学会中国四国地区会会長の中根周歩氏(広島大・院)が、長島周辺の景観写真などを提示しながら、日本でも最後に残された内海の自然としての長島周辺・周防灘の貴重さを指摘した。 |
2000年 | 3月 | 日本生態学会第47回全国大会において「要望書」が採択された |
5月 | 中国四国地区役員会、地区総会での討議と、アフターケア委員会からの報告があった。 | |
6月20日 | 周防灘生態調査ワーキンググループ(WG)を設置し、専門的知識を有する研究者17人をメンバーを委嘱した。 | |
7月 | 「九州・沖縄湿地ネットワーク」「山口貝類研究談話会」との共催により、シンポジウム「周防灘讃−−現代日本最高の内湾とともに生きるということ」を開催した。 WG第2回現地調査。 | |
9月 |
WG第3回現地調査。 中国電力への申し入れをし、アセスメント中間報告の事前公表を要請した。 |
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10月 | WG第4回現地調査(潜水調査)超党派国会議員団(5名)の視察。 | |
11月 |
10月末の「上関原子力発電所(1,2号機)に係る環境影響評価中間報告書」の公表を受けて、11月6日に「中間報告書についての見解」をとりまとめ、通産省と環境庁への申し入れをおこなった。 生態学会自然保護委員会アフターケア委員会、自然保護委員会へのケアー委員会見解を提出した。 通産省の審査会、中国電力の「中間報告」を了承。日本生態学会中国四国地区会の見解については検討し、必要があれば、中国電力にも指示する」とマスコミに対して発表。 |
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12月 | 通産省、電調審への上程を延期。 | |
2001年
| 2月 |
山口県知事、中国電力の「中間報告」を了承。「中間報告」においては、1999年11月の山口県知事意見はおおむね尊重されているとの見解を通産省に提出。 |
3月27日 |
、日本生態学会第48回の自由集会に参加(本報告) 生態学会の要望書、自然保護委員会、全国委員会での審議をへて、29日総会に提出(質疑応答のを経て賛成多数で決議された)。 |
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※2001年秋の印刷をめざしている「中国四国地区会報」において、2000年度のWG調査報告が刊行される予定。 |
3.底生生物からみた長島の海のすばらしさ ゴカイ類の専門家である佐藤正典氏(鹿児島大)と軟体動物の専門家である福田宏氏(岡山大)による、低生生物についての発表。 軟体動物については、「カクメイ科」などの世界的に見てもきわめて稀少な種や新種が分布している。追加調査でも、日本初記録、瀬戸内海新記録、山口県新記録などのウミウシ類などが発見されている。ナメクジウオや腕足動物など、日本では非常に稀になった生物があたりまえのように多数分布している。ゴカイについても、大型のオミエシフサゴカイ属が多く生息する点で、きわめて例外的によく保全された海域である。 発表は、福田氏が海外出張中のため、佐藤氏がまとめておこなった。 |
4.ハヤブサと 長島の植生 |
WGの野間直彦氏(滋賀県大)は、ハヤブサ調査の問題点を指摘した。とくに、鼻繰島のペアは、昨年繁殖に失敗したのだが、その原因が、繁殖場所のすぐ下の海からの継続的観察を含むアセス調査そのものにあるという可能性をきびしく指摘した。また、営巣地を保全するだけで、餌場として利用している場所を大きくけずりこむように埋め立てや建屋の建設が計画されているにもかかわらず「影響は小さいものと考えられる」などの常套句が並べられている中間報告の問題点を指摘した。 また、野間氏は、海に面する一部の崖に生育するビャクシンの量的な調査の一端を紹介した。ダイノハナという小島側では、壮齢木も含めて根際の断面積合計を指標にすると、約60%をビャクシンが占めており、中間報告書でマサキ=トベラ群集の一部としているのは当を得ていないことを明らかにした。海に面した別の斜面では、タブノキなどの照葉樹林となっていることから、埋め立てによって海からの風やしぶきのあたり方が変化すれば、ビャクシン群落も消滅する可能性が大きいことを提示した。 さらに、海から少しだけ内陸に入ると、かつては利用されていた二次林が豊かな姿で広がっており、海と直結した里山とでも言うべきこの森と海の健全性には何らかの関連があるに違いないと予測されると締めくくった。 |
5.コメント 引き続き、それそれ約10分のコメントを2人の方にお願いした。 まず、高島美登里氏(長島の自然を守る会)が、周防灘と長島の環境を守ることをめざす、市民のNGOとしての活動報告をした。新年度のWGの第1回現地調査は、5月5日と6日であるという予定を報告し、参加希望者を募った。 続いて、波田善夫氏(岡山理大)が、1999年4月の環境影響評価基本法(アセス法)の施行前後におこなわれた3つのアセスメントを比較して紹介した。愛知万博では、先取りで生態系アセスをもりこんだことは高く評価できる。岡山県の柳井原堰では、駆け込みでアセスをすることを断念した。こうした例と比較して、中国電力株式会社の山口県上関町での原子力発電所のアセスは、新法の施行前の駆け込みをめざしたため、現在まれにみる低レベルのアセスとなったことを指摘した。 |
6.フロアからの 質問と発言 |
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